-どんな時に豆乳を飲むのがいいのですか
坂元 今のように練習後でももちろんいいのですが、いつも食卓にあり、食事の中で飲むというのもいいですね。
小川 豆乳をたんぱく質補給として、運動後や寝る前に活用して欲しいです。今は健康志向ですし、意識の高い人が飲むものというイメージがありますが、坂元先生がおっしゃるようにもう少し日常生活に入って欲しいと思います。
特に女子に必要な大豆イソフラボン
-アスレシピでも、牛乳と豆乳の違いは何?という質問が届きます
坂元 含まれる栄養素は違いますし、それぞれ良いところがあるので、置き換えられるものではありません。牛乳には吸収の良いカルシウムが多いですが、それだけでは骨は作られません。豆乳の方が多いマグネシウムも同時に摂ることで、効率よく強い骨が作られます。
小川 豆乳の特徴は、大豆イソフラボンが含まれていることです。女性ホルモン様の作用があるだけでなく、骨を強くする成分の一つでもあり成長期には大切な成分です。また、エネルギーバランス(糖質、脂質、たんぱく質の含有割合)が整っていて、食事の栄養バランスも良くしてくれます。さらに、大豆オリゴ糖には、整腸作用があり便秘改善効果があるともいわれています。
-意識して飲むようにすることが大切?
坂元 いえ、意識してではなく、牛乳と同じように飲むのが当たり前になって欲しいですね。成長期のアスリートのご家庭の冷蔵庫には1リットル入りの牛乳がありますよね?牛乳が身近なのは、学校給食が大きいと思います。そこで毎日飲んでいたから飲み慣れていて抵抗がないんですよね。
-では、学校給食に豆乳を入れてもらいましょう(笑)
一同 笑
坂元 1週間に5日給食があるなら、3日は牛乳、2日は豆乳といった具合になると、同じような立ち位置になりますよね。できるだけ小さい頃から豆乳を飲むことを生活の中に取り入れてもらえれば…。
小川 そのまま飲むだけでなく、料理にも利用してもらいたいです。シチューやグラタンに使うと牛乳よりも低カロリー。みそ汁や鍋に入れてもマイルドな味わいになります。果物とハチミツとでスムージーにするのもいいですね。
一気に1Lより分けて飲む
-高身長のアスリートが子どもの頃「牛乳をよく飲んでいた」と話します
坂元 牛乳も豆乳も、1Lを一気に飲むより、1回200mlを5回に分ける方が吸収率も良くなります。1日のうち牛乳を3回、豆乳を2回といったようにすると、さらにバランスが良くなります。
小川 目的に応じて、豆乳と牛乳を選べるというのが理想的ですね。
-継続摂取すると体は変わってくる
坂元 諸説ありますが、骨が強くなるのは1年かかると言われています。体づくりには継続的な働きかけが必要です。
-カギは「継続」ですか
坂元 継続という感覚より「当たり前」です。ご飯は意識して食べませんよね。ご飯を食べるように普通に、当たり前に。もちろん、1日摂ったからといって体は変わらないので、そういう意味での継続は必要です。そして、向上心とトレーニングの質を少しずつでも良くしていくというのも大事なことです。
-女子アスリートは月経異常、無月経の心配も
田邊 エネルギーが足りないと貧血になって走れなくなったり、生理が止まって疲労骨折になったりするので、気は配っています。月経異常の選手は何人かいます。
小川 監督が現役時代はそういった話題は?
田邊 全くなかったし、啓発されたこともありませんでした。栄養を考えたご飯は出ていましたし、トレーナーもいた時代ですが、そういう話題は全く。
坂元 「言わない時代」でしたし、私が携わり始めたときは、「スポーツ栄養」という言葉もなかった。
田邊 当時はスマートフォンもなく、自分で調べる手段も多くなかったので、深く考えたこともありませんでしたが、幸い、私は“超健康”で何も悩むこともなく、ケガもなく過ごせました。指導者になって思うのは、この体と一生付き合っていくんだということ。若い頃はなかなか分からないと思いますが、スポーツ選手としてだけでなく、大人になって後悔しないような体作りをさせたいと。
一同 うなずく
-部員の約半数は豆乳を継続摂取していません。今後の施策は
小川 初めは全員に飲んでもらいましたが、体の変化に敏感な選手もいましたし、正直「味がダメ」という選手もいました。今後は、そういう選手でも豆乳を毎日飲みたくなるような魅力ある商品を開発していきたいと思います。例えば、ゼリー状になった豆乳とか、パッケージも四角い紙パックでなく、丸く持ちやすいおしゃれな形だとか。飲み方の提案もしていきたいと思います。
田邊 そういえば、自販機に豆乳ってないですよね?
小川 確かに…。そういうことも対応していかないといけませんね。
坂元美子(さかもと・よしこ)
神戸女子大学健康福祉学部健康スポーツ栄養学科准教授。管理栄養士、N・Rサプリメントアドバイザー。1995年~97年、プロ野球オリックスの球団専属栄養士を務め、リーグ優勝、日本一を経験。社会人野球の大阪ガス、女子サッカーのINAC神戸、高校男子サッカーの京都橘、富山第一などプロアマ問わず栄養サポートを実施。それぞれ好成績に導いている。NPO法人日本スポーツコーチ&トレーナー協会理事。
田邊友恵(たなべ・ともえ)
千葉県出身。東京女子体育大学を経て、2003~07年アルビレックス新潟レディースに所属。チームの日本女子サッカーリーグへの加盟、1部昇格に貢献。現役時代のポジションはFW。引退後は指導者となり、08~11年、JAPANサッカーカレッジレディース、12年から体育教師として日ノ本学園に移り、サッカー部を指揮する。指導後の成績はインターハイ5度、全国高校選手権で2度日本一。
小川静香(おがわ・しずか)
マルサンアイ株式会社開発統括部・研究開発室研究グループ所属。管理栄養士・公認スポーツ栄養士・博士(医学)。日本女子大学家政学部卒業後、東北大学大学院医学系研究科運動学分野を修了。2016年からマルサンアイで、豆乳の機能性に関わる研究、豆乳飲料の開発業務に従事。趣味の筋トレとトライアスロンのトレーニングに自社商品のみそや豆乳を活用し、体作りや大会に向けたコンディショニングを実践中。
日ノ本学園・キャプテンメモ
グラウンド脇に「豆乳部屋」、女子高生ならではの飲み方で毎日1本
日ノ本学園のサッカーグラウンド脇には、用具と調製豆乳が保管されている「豆乳部屋」がある。個々の豆乳にはメンバーの通し番号が書かれ、飲み残しがないよう管理。現在は部員の約半数が練習後や試合後に1本、継続的に飲んでいる。そのうちの1人、キャプテンのMF川名みのり選手(3年)は「味が気に入って飲んでいますが、筋肉量が増えたのは豆乳のおかげかもしれません。そういえば夏に熱中症にもならなかったし、足もつっていません」と話した。味付きストローを使ったり、ココアで溶かしたりとアレンジし、女子高生ならではの飲み方で楽しんでいる選手もいるようだ。