<キッチンは実験室(8・上):味覚の科学とおいしさ>

 みなさん、こんにちは。キッチンの科学プロジェクト(KKP)の「みせす」です。今回は、「おいしさ」を科学してみましょう。先月末に、全国的なキャンペーンとして「味覚教育」が行われ、みせすも小学校で味覚の授業をしてきました。その内容を踏まえて、2回に分けてお届けします。

視覚と味覚の関係

 ここに、赤いグミ、黄色いグミ、透き通った黄色いグミ(右)があります。

 それぞれ何の味だと思いますか?  子どもたちに聞くと、「コーラ」「アセロラ」など、いろんな声があがります。

 しかし、どれも不正解。

 次に黄色いグミを食べてもらうと、「オレンジ」「グレープフルーツ」「はちみつ」…の声が。

 そう、正解は「はちみつレモン」です。

 それでは、赤いグミは何でしょう?

 実はこれも「はちみつレモン」味。「えええええええ!!!」と大ブーイングが挙がりました。私たちの味覚は、それだけ「視覚」に左右されているということですね(ちなみに、透き通った黄色いグミは「光るグミ」です)。

 青い野菜は存在しないということは、以前も述べました(「紫色は身体を守る?野菜を使ったカラフルマジック」)が、私たちは青いご飯より白いご飯やお赤飯を食べたいですよね。

嗅覚と味覚の関係

 今度は鼻をつまんでグミを食べてみましょう。

 あまり味がしませんね。5回噛んでつまんでいた指を外すと、ふわっと甘酸っぱい果汁の味が広がります。

 味覚とは、95%が嗅覚だと言われています。味覚のほとんどの情報は鼻腔から入り、後鼻腔で感知された後、脳(嗅球)で認識されます。味ににおいが混じったものが、「風味」と呼ばれるものです。「○○風味」という水は香料で、味がついているように思える水なのです。

舌で味わう五味

 それでは、「舌」はどのような情報を感知しているのでしょうか。食べ物を構成する基本的な味は、5つあるといわれています。いわゆる「五味」です。

 ご飯などの「甘味」、塩の「塩味」、レモンの「酸味」、ピーマンの「苦味」、そして昆布やかつおだしの「うま味」が五味で、それぞれ科学的な意味もあります。

甘味…炭水化物や糖などの味で、エネルギーのサイン。

塩味…ナトリウムや金属陽イオンなど、体液バランスをつかさどるミネラルの味。

うま味…グルタミン酸などの体をつくるアミノ酸や核酸の物質から来ている味。

 この3つは母乳に含まれている味なので、子どもが幼少時から好きな味と言われています。

 一方で「酸味」と「苦味」はどうでしょう。

酸味…酢酸、クエン酸に含まれる水素イオンの味。運動した後に塩レモンがおいしいのは、運動によってダメージを受けた細胞が新しく生まれ変わるのに必要な物質だからです。一方で発酵しすぎた漬物や腐りかけの味がすっぱいように、腐敗のシグナルとも。

苦味…コーヒーやビールが苦いように、子どもにとって毒物の警告としての働きがあります。しかし、これらは学習効果で好きになるとも言われています。

 食べ物の味はこの5つの味が合わさり、時には相乗効果としておいしさを引き出します。酸っぱい酢も砂糖と少しの塩を入れてまろやかなすし酢になったり、さわやかなマリネの味になります。苦味の強いにがりも、豆腐を作るために欠かせない天然の添加物です。だしをいれるとみそ汁の減塩効果が期待されます。

 そんな五味は、舌にある味蕾(みらい)で感知され、脳(延髄、大脳皮質)に送られ、嗅覚の情報と一緒に脳で判断されます。味覚の発達時期は3~10歳頃だといいます(「五味五感だけでない、心の状態も“美味しさ”に関係」に続く)。

金子浩子

子ども向け食育ボランティア団体「キッチンの科学プロジェクト(KKP)」代表・講師
東京薬科大生命科学部卒/群馬大学大学院修士(保健学)。中・高校教諭一種免許状(理科)取得
国際薬膳師・国際薬膳調理師・中医薬膳師。キッズキッチン協会公認インストラクター。エコ・クッキングナビゲーター