<キッチンは実験室(3):紫色の野菜でカラフルマジック>

 みなさん、こんにちは。キッチンの科学プロジェクト(KKP)の「みせす」です。

 梅雨に入り、ちょっと憂鬱ですが、楽しみもあります。6月は梅の季節。梅酒や梅シロップ作りなどの梅仕事をされた方もいるでしょう。今回は、その梅にも関連するお話から入ります。

シソに酸性、アルカリ性を加えると…

シソの葉をよく洗い、塩で軽くもむと、紫色の液が出てきます。透明なコップを3個用意し、この液体を入れます。

1つにはレモン汁(酸性)、1つには重曹(アルカリ性)を足してみましょう。すると、ピンク色、青緑色にそれぞれ変わり、最初の紫色と合わせて3色の液体が出来上がります。

シソジュース。左は重曹、右はレモン汁を足したもの
シソジュース。左は重曹、右はレモン汁を足したもの

 上記の実験のように、塩でつけた梅(梅酢)にシソを加えるとピンク色に変わります。これは梅に含まれているクエン酸が酸性で発色するため。赤い梅干しはこの原理です。

 次に、塩でもむことなく、シソジュースを作ってみると、さらに面白い発見があります。お鍋に水、シソ、砂糖を入れてコトコト煮ると、水が紫色になるのと同時にシソが緑色になります。これは、紫色の成分「アントシアニン」が水溶性のため、水に溶けるからです。しばらくすると、紫色の液がまたシソの中に戻って紫色になります。

 以前、「紫キャベツでリトマス試験紙を作れる」と流行したことがありましたが、それも同じ原理で、このような実験はブルーベリーや紫イモパウダーでもできます。考えてみると、紫イモを使ったお菓子は紅イモタルト、紫イモパン、シフォンケーキなど、ベーキングパウダーや重曹といったアルカリ性の成分を使っていません。これは、科学的な反応を生かし、色を鮮やかに出すため、調理法を選んでいるのです。

ポリフェノールの説明画像

ポリフェノールと抗酸化作用

 では、この科学反応を発展させて、私たちの健康の話をしましょう。

 紫色のアントシアニンは「ポリフェノール」という“大家族”の中の1グループです。ポリフェノールは空気中の有害物質や活性酸素と結びつき、人間を酸化から守ってくれる働きがあります。これを「抗酸化作用」といいます。

 酸素とくっつくこと(酸化)で鉄がさびるように、人間の身体もさびます。揚げ物の油をずっと使い続けると色が変わるのも酸化した結果で、人間の身体も血液の中にどろどろした油がたまると、動脈硬化の引き金になります。

さびる鉄

さびる人間

 ちなみに、ポリフェノールはそれ自体が酸化されると、最後はメラニンという茶色の物質になります。リンゴの切り口が茶色くなるのもその原理。お肌も酸化されると、いずれはシミになります。実はポリフェノールを含む食べ物は、それ自身が酸化されることで私たちの体の酸化を守る働きがあるとされています。

守るポリ

 どうしても「悪者」のイメージが強い酸化ですが、酸化を生かしている調理法も存在します。小豆やささげを煮た時、お玉ですくって空気にさらすと、濁った赤色が発色して鮮やかな赤色になります。これは、ポリフェノールが酸化したおかげです。

食欲をそそる色、青色は?

 さて、話は戻ります。紫色やピンク色は食欲をそそる色ですが、青色(青緑色)は食欲減退のカラーです。「おいしい」という感覚は、舌で感じる味覚だけではなく、色や視覚も大きなキーワードです。自然界において、おいしいと思われないため、実は「青い野菜」はありません。シソを使って赤く梅を漬けるのは、シソに含まれる防虫腐敗効果だけでなく赤い色で食欲を引き出したり、日本人の美意識から来ているのではないかと言われています。

 食と科学と自然は全てつながっている、野菜の色には意味がある…そんな話をしながら、子どもたちと一緒に色の変化を楽しめる白玉を作ってみませんか。今のシーズンはシロップの代わりにシソジュースを使ってみるのもいいですね。6月は食育月間。ぜひ、家族で楽しみながら、おやつを手作りしてみて下さい。

*<家庭でできる実験レシピVol.3「カラフル白玉」>*

材料
・白玉粉…200g
・紫イモパウダー(※1)…大さじ3~4
・レモン果汁…大さじ1
・水…180cc
・重曹(入れたい人)…小さじ1

作り方
(1)生地が耳たぶの固さ程度になるよう調整しながら白玉粉、水をまぜてこねる。
(2)生地を3つにわける。1つはそのまま(白)、ほか2つには紫イモパウダーをまぜる。
(3)紫イモパウダーを入れてこねて2つに分けて、1つはそのまま(紫色)、もう片方にはレモン汁を入れてこねる(ピンク色)。入れたい人は重曹を入れる(青くなる)。
(4)沸騰したお湯の中に入れてゆでる。浮かんできて2分程度ゆでたら氷水で冷やす。
(5)シロップやシソジュースの中に浮かべて出来上がり。

カラフル白玉

※注=紫イモパウダーは製菓材料で売っています。紫イモペーストでもOK。

金子浩子

子ども向け食育ボランティア団体「キッチンの科学プロジェクト(KKP)」代表・講師
東京薬科大生命科学部卒/群馬大学大学院修士(保健学)。中・高校教諭一種免許状(理科)取得
国際薬膳師・国際薬膳調理師・中医薬膳師。キッズキッチン協会公認インストラクター。エコ・クッキングナビゲーター