<女は筋肉 男は脂肪/第2章:体力・運動能力の男女差はなぜ生まれるか(3)>

筋量の男女差

筋肉には、体を動かす「骨格筋」、心臓の壁をつくる「心筋」、血管や内臓諸器官の壁をつくる「内臓筋」の3種類があります。

このうち、骨格筋のなかにある「筋線維」という筋細胞の束が脳からの命令によって収縮するおかげで関節が動き、手や脚を動かすことができるのです。

全身に400種類以上あるといわれる骨格筋の量を示したものが「筋量」です。全体重に占める割合は、成人男性は40~45%、成人女性は30~35%にもなります。

成長とともに筋線維が太く長くなり、その数が増えることによって全身の筋量は増加しますが、12~13歳を過ぎたころから男女の差があらわれてきます。その後は、すべての年齢を通して、女性の筋量が男性の筋量を上回ることはありません。

男女ともに増え続けた筋量は、45歳あたりから減少がはじまり、60~70歳から減少のペースが加速してしまいます。女性に比べて男性の全身筋量のピーク値が高いため、減少する割合は、男性のほうが高くなっています。

上半身と下半身の筋量をみても、男女とも上半身に比べて下半身の筋量が著しく減少するのは、昔から、「老化は脚から」とよくいわれていたとおりです。直立した姿勢を支える体幹筋も、加齢とともに筋量が減少することが明らかになっています。

筋力の男女差

筋量が骨格筋の量であるならば、「筋力」は、骨格筋が発揮する力の総称を示したものです。筋量が多ければ、筋力も高くなります。

筋力を決定づけるのは筋の断面積の大きさ、つまり筋線維の太さと数です。それ以外にも、筋力は、筋線維の配列、筋線維のタイプなどから多くの影響を受けます。

筋の断面積は、超音波法、MRI(磁気共鳴画像法)、CT(コンピュータ断層撮影法)などで計測できます。

子どもの筋の断面積は年齢とともに増加しますが、1年間で増える量がピークに達するのは男子は12~13歳で、18歳まで増加の傾向がみられます。いっぽう女子は、14歳以降は増加傾向が緩やかになるため、14歳を境にして筋力の男女差が徐々に大きくなっていきます。

ちょうどこの時期は、「第二次性徴」と重なります。性ホルモン環境の違いが、男女の体格や身体組成の差を生み、それが筋力の男女差につながっていくものと考えられます。

筋力のうち、もっとも信頼性の高いデータが得られるのが握力で、「筋力の代表値」ともいえます。次いで、背筋力(背筋をのばすときの力)です。

全身筋量の加齢変化と握力と背筋力の加齢変化のグラフ

握力は、10歳ぐらいまでは男女の差はそれほどみられませんが、12歳を過ぎたあたりからその差は次第に大きくなっていきます。特に男性は15歳ごろから急速に増加し、以後すべての年齢で男性の値が女性を上回っています。ピーク年齢は、男性が20歳代、女性が30歳代となっています。

ピーク後は、どんなに健康な人でも、運動習慣がなければなおさら、握力は加齢とともにあれよあれよという間に低下してしまいます。50歳になるとピーク値の90%、60歳で80%、70歳で70%となり、50歳を過ぎてから10年ごとに10%程度低下していることが分かっています。

また、背筋力も握力とまったく同じ傾向を示しています。男女差は12歳ごろから徐々に大きくなり、背筋力のピーク年齢は男女ともに20歳代といわれています。

ピーク後は、背筋力は40歳ごろまではなんとか維持されますが、運動習慣がなければ、さらに加齢とともに低下してしまいます。50歳になるとピーク値の85%、60歳で65%程度に。70歳になると、男性は55%、女性は45%程度と、ピーク値の半分にまで低下してしまいます。

14歳を過ぎると、すべての年代で、握力、背筋力どちらの値も、女性が男性を上回ることはありません。

握力、背筋力、脚筋力、屈腕力を絶対値で比較した場合、女性の筋力は同年代の男性の約65%(50~70%前後)といわれています。分子、細胞、組織といった筋肉の生理学的な質について男女に大差はありませんが、筋力にこれだけの差があらわれるのは、絶対的な筋量の差が大きいことによります。女性よりも男性のほうが、パワーがあるといわれる理由はここにあります。

脚筋力の男女比のグラフ

脚筋力を例としてみると、女性と男性では体格に違いがあるので絶対値では大きな差がありますが、体重あたりではその差は縮まり、筋肉などの除脂肪量あたりでは男女差はほとんどみられなくなります。

(つづく)

※「女は筋肉 男は脂肪」(樋口満、集英社新書)より抜粋