体重は、食事摂取量と運動などによるエネルギー消費量だけが関与しているわけではありません。代謝の亢進や低下によっても消費エネルギーが変化します。それに大きく関わっているのがホルモンです。特に甲状腺ホルモンは代謝と大きく関係しており、その異常による病気は意外に多いのです。

私が保健指導している中で、月に1人程度は甲状腺機能の異常が見られる方(治療中、疑われる方)がいます。治療中でも甲状腺ホルモンの調整不良の場合は、体重コントロールや検査数値の改善が難しいため、まずは甲状腺機能を改善することが優先です。

甲状腺とは

甲状腺は首の真ん中、のど仏のすぐ下にある臓器で大きさは約4~5センチ、正面から見ると蝶が羽を広げたような形をしています。体全体の新陳代謝を促進するホルモン(甲状腺ホルモン)を出すところで、甲状腺ホルモンは全身の代謝を維持するのに重要です。

甲状腺が異常をきたすと、多くは腫れを生じます。健康診断では、医師が内診時に甲状腺の状態を確認していますが、通常は甲状腺ホルモンの検査は血液検査に入っておらず、健康診断で診断されることはありません(疑われることはある)。甲状腺が腫れることは甲状腺の病気以外にも見られるため、次の症状やその他の症状がある場合は、受診をしましょう。

甲状腺代謝亢進症

甲状腺ホルモンが過剰に分泌される甲状腺代謝亢進症の代表的なものとして、バセドウ病があります。

よく見られる症状は、頻脈(1分間の脈拍が100回以上)、不整脈、血圧上昇、手の指が震える、暑がりで汗をかく、食欲が出る、食べているのに体重が減る、疲れやすい、イライラする、睡眠障害、排便回数増加(時に下痢)、月経周期が長くなるなどです。体重が減ること以外は更年期の症状に似ていますね。

甲状腺の炎症、腫瘍などが原因ですが、甲状腺ホルモン分泌を指示する脳の下垂体の異常が原因の場合もあります。アメリカでは約1%の人が甲状腺機能亢進症で、出産後や更年期の女性に多い病気です。

ヨウ素過剰による代謝亢進症

ヨウ素の過剰摂取によっても甲状腺代謝亢進症を引き起こすことがあります。

ヨウ素は甲状腺ホルモンの主成分です。日本の食事摂取基準では、1日におけるヨウ素の上限量を3mg(成人男女)としています。日本人は海藻や魚介類を多く摂取する食習慣があるため、1日にヨウ素を1~3mg摂取していると推定され、必要量に足りていると考えられています。

通常の食事で摂るヨウ素の量であれば、排泄により調節でき、過剰になることは稀ですが、長期間、ヨウ素を含む薬やダイエット食品、サプリメント、昆布などの海藻の過剰摂取を続けると、健康を害することがあるので注意が必要です。ヨウ素が含まれるダイエット食品による健康被害の報告は少なくないため、安易に利用することはやめましょう。

甲状腺機能低下症

甲状腺の働きが低下して甲状腺ホルモンの産生が不十分になり、甲状腺機能低下症になると、甲状腺機能亢進症と逆の症状が見られます。寒がりで汗をかきにくくなるため、皮膚が乾燥気味になります。いつも眠く、物忘れが多くなり、動作がゆっくりで便秘になり、体重が増加します。また、LDLコレステロール値が上昇します。

亢進症も低下症も、だるく疲れやすいのは共通の症状です。どちらにも肝機能のAST、ALTの上昇が見られることもあります。また、それぞれ別の原因で起こるわけではなく、甲状腺炎(ウイルス感染や自己免疫性による炎症)では、甲状腺機能亢進症から低下症に移行することがあります。

最近、食事量や生活が変わっていないのに体重が増減する方は、甲状腺ホルモン異常を疑ってみる必要があるかもしれません。

管理栄養士・今井久美