<トップ選手のトライ&エラー/2>

栄養バランスを整えれば今より体は強くなる―。頭ではそうと分かっていても、続けることは結構難しい。

東京五輪で11大会ぶり2度目の出場となるハンドボール女子日本代表「おりひめジャパン」も悪銭苦闘の連続だった。意識が高いトップアスリートでも…いや、だからこそ陥りやすい落とし穴とはいったい何か。彼女らの“失敗”から、栄養に取り組む人たちが学べる教訓を紹介する。

体作りはタンパク質「摂取量>排出量」

練習前後に目的に応じたアミノ酸を摂取する選手たち(味の素VP提供)
練習前後に目的に応じたアミノ酸を摂取する選手たち(味の素VP提供)

2019年12月の世界選手権までに、強豪国より4キロ軽い平均体重を「世界基準のカラダ」まで引き上げる-。2017年1月、味の素ビクトリープロジェクト(VP)のサポートによる強化計画「世界と対等に戦うためのカラダ作り」が始まった。

体を大きくするといっても、単純に太ればいいわけではない。カラダ作りに必要なタンパク質を摂るには「摂取量>排出量」の状態を作ることが必要になる。

では、どのくらいの量を摂取しなければいけないのか。ハンドボール選手に関するデータはほとんど存在しないため、実際の代表選手たちを対象に「ヒト試験」が行われた。

「ヒト試験」で算出できた必要な摂取量

食事を調査して摂取量を調べた。一方で、24時間の尿を回収して排出量も算出した。

「3日間、全ての尿を採りました。練習は容器持参で」と副将の永田しおり。その差から必要量を算出したところ、ハンドボールでは体重1キロにつき、2.1グラム以上のタンパク質を摂取する必要があると分かった。体重65キロであれば、1日最低136.5グラムが目安。その目安よりタンパク質摂取量が少なくなると当然、筋肉が減ってしまう可能性が出てくる。

でも、タンパク質の摂取量を食事からイメージできる人は、めったにいない。彼女らも具体的な食事をイメージすることが難しかった。

世界選手権1次リーグ対アルゼンチン戦でゴールを決める永田しおり=2019年11月30日
世界選手権1次リーグ対アルゼンチン戦でゴールを決める永田しおり=2019年11月30日

簡単な「入り口」があれば進めるはず…

味の素VPチームが行ったことは、分かりやすい「入り口」作りだった。

必要なタンパク質を摂るために、❶主菜2品を用意しよう、❷2品が難しければコンビニも活用して「卵スープ」などのタンパク源が入った汁物で補おう、❸社食での昼食にチーズや納豆を持ち込んでタンパク質を強化しよう!

こうした簡単な入り口が用意されていれば、選手も進みやすい。

ほかにも、選手自身で「チームで常備している牛乳を飲む」「昼食の主菜を増やすのは難しいので、練習前後に補食を摂る」「週末に卵2パック、チーズを買いだめする」といった“実現可能”な工夫を考えた。

そして、体重をつけてグラフ化する。提案された食事を食べて体重を量る。ここまですれば、あとは簡単なように思えた。

しかし、カラダ作りはうまくいかなかった。

いくつかある中でもっとも大きい原因は、選手の意識がまだ体重に向いていないことだった。トップ選手であっても…いや、そこにはトップ選手だからこそ難しい原因があった。

トップの選手ほど難しい食事の意識改革

選手の食事の様子を見る上野氏(味の素VP提供)
選手の食事の様子を見る上野氏(味の素VP提供)

日本代表に選ばれる選手ともなれば、地元では怪物扱い。「怪童」「神童」「天才」などと呼ばれたかもしれない。中学、高校では周囲よりうまくできる分、疲れることも少ない。いくら練習しても翌日には元気いっぱい。「栄養なんて考えたこともない」と、食事を意識せずともそれなりにできてしまう。特に、若ければ若いほど。

だから、食事への意識改善はトップ選手であるほど難しいという。

しかし、世界と戦うためにもう1段、2段上に行くためには、その意識を変えていかなければいけない。どうすればいいか。

味の素VPの上野祐輝氏はあるトップ選手たちへの勉強会で野菜の大切さを説く際、こんなやりとりをするという。

「ビュッフェ形式のサラダバーでは、キャベツの千切りてんこもりだけでいいと思う?」

そこには、いろいろな意図が込められている。【今村健人】(つづく)