<トップ選手のトライ&エラー/1>

栄養バランスを整えれば今より体は強くなる―。頭ではそうと分かっていても、続けることは結構難しい。

意識が高いトップアスリートなら当たり前のように取り組めていると思うだろうが、これが意外とそうでもなかったりする。前回、五輪という大一番で選手たちが求めるモノを紹介したが、そんな選手たちもすぐに変われたわけではない。

今回紹介するのは、東京五輪で11大会ぶり2度目の出場となるハンドボール女子日本代表「おりひめジャパン」の悪銭苦闘の物語(計5回)。そこにはトップ選手だからこそ陥りやすい“落とし穴”があった。2019年の世界選手権で過去最高成績を残すまでに至った“トライ&エラー”は、栄養に取り組む人たちへ勇気や励みを与えてくれる。

ハンドボールの隠れた要素は「肉弾戦」

世界選手権1次リーグ対コンゴ戦で、ユニホームをつかまれながらもゴールを決める多田仁美=2019年12月2日
世界選手権1次リーグ対コンゴ戦で、ユニホームをつかまれながらもゴールを決める多田仁美=2019年12月2日

まず競技をよく知らない人のために説明すると、ハンドボールは「走る・投げる・跳ぶ」の3要素が必要な激しいスポーツだ。

前後半30分ハーフの試合では、フットサルとほぼ同じ面積のコート上を6人(+GK1人)がずっと走り回り、ゴールを狙う。耐えうるスタミナやスピードがあることは大前提。その上で上半身の投力や、下半身のジャンプ力が欠かせない。

ただ、ハンドボールの「魅力」はそれだけではない。守る選手は正面からであれば、攻撃する相手への接触プレーが許されている。ルールが似ているバスケットボールとはここが違う。軽いファウルであれば、相手の攻撃の流れを断ち切ったとして「ナイスディフェンス」の声が飛ぶ。体と体が激しくぶつかる格闘技のような肉弾戦が随所に見られる。

世界で勝つ上で避けられない「体」作り

世界と対等に渡り合うためには、接触プレーに負けない強い体が求められた
世界と対等に渡り合うためには、接触プレーに負けない強い体が求められた

ハンドボールに限らず、ラグビーなど日本の球技はこれまで、接触プレーを極力避ける傾向にあった。極端に言えば「体の弱さ」には目をつむり、スピードや技術で補おうという考えが主流だった。

確かに日本国内で勝つだけなら、スピードと技術でも何とかなる。だが、世界と渡り合うためにはもう、「弱い体」に目を背けることはできなくなっていた。実際、2019年のラグビーW杯で話題となった、相手にタックルされて倒れながらもパスする「オフロードパス」は、まさにラグビー日本代表の変革の証しだろう。

求められるのは、1対1の局面を制するフィジカルの強さ。1976年モントリオール五輪(オリンピック)以来11大会ぶり2度目の出場となる東京五輪に向けて、ハンドボール女子日本代表、通称「おりひめジャパン」もまさに、その課題と正面から向き合うことに決めた。それが2017年1月。味の素ビクトリープロジェクト(VP)のサポートによる強化計画「世界と対等に戦うためのカラダ作り」が始まった。

筋肉量を増やすためのタンパク質の確保

栄養の勉強会を開いたハンドボール女子日本代表(味の素VP提供)
栄養の勉強会を開いたハンドボール女子日本代表(味の素VP提供)

強化計画の目標としたのは、「世界標準のカラダ」だった。

強豪国をみたとき、世界ランク16位(当時)の日本女子の平均体重は、彼女らよりも4キロほど軽かった。身長を伸ばして追いつくことはできない分、ここに焦点を当てた。❶強豪国とのサイズの差を埋めるために、筋肉量を増やしてカラダを大きくする。❷そのために筋肉の材料となる「タンパク質」をしっかり確保する-。2つの課題を掲げ、目指すべき数値を明確にした。

設定期限は、約3年後の2019年12月に熊本県で開催される世界選手権。それまでに体のレベルを引き上げる-。こうして目指すべきゴールが固まり、チームの共通認識ができあがった…はずだった。

だが、道はへいたんではなかった。栄養への意識の弱さや、手段と目的の逆転。将来よりも目先の勝負…。そこには多くの一般人も陥りがちな「原因」がいくつもあった。【今村健人】(つづく)