<食事の効能を考える/上>

アスリートに限らず、正しい栄養の摂取は体作りにつながる。でも、食事の効能はそれだけにとどまらない。

前回、楽しみながら栄養摂取する試みを紹介したが、今回は2016年のリオデジャネイロ・オリンピック(五輪)で起きた“予想外”の事例を紹介する。五輪で選手らが宿泊する選手村内には必ず食堂が設置され、選手や関係者は豪華な食事をよりどりみどり、無料で食べることができる。にもかかわらず、選手が選んだ食事は…。

ピーク時は世界一混雑する選手村の食堂

世界各国の選手らが大会期間中、一堂に会する“街"、それが「選手村」と呼ばれる。始まりは1924年のパリ五輪で、宿泊先に困らないよう4人用の木造コテージが用意された。1932年のロサンゼルス五輪では約550戸もの仮設住宅が設営されたが、これらは男子専用。女子はホテルに宿泊したという。五輪憲章で正式に設置が義務づけられたのは戦後最初の1948年ロンドン五輪からだった。

リオ五輪の選手村=2016年8月1日撮影

以来、快適に過ごせるように変遷してきた選手村で、選手の変わらない楽しみの1つが「食堂」にある。何千人も収容できる大ホールは24時間営業で、世界各国の料理がビュッフェ形式で用意される。2012年のロンドン五輪ではピーク時、わずか30分間で1万食も提供されたという。換算すると1秒間で5・5食。すさまじい量が一気に消費されたことが分かる。

ちなみに、世界中の選手が一堂に会する食堂ではうれしい遭遇もある。リオ五輪で1番人気だったのは男子100メートルのウサイン・ボルト(ジャマイカ)との出会い。テニスで銅メダルを獲得した錦織圭は「間近で見られて感動した。一緒に写真を撮ってもらおうかと迷ったけど、勇気が出なかった」。男子マラソンのカンボジア代表だった猫ひろしも「一番興奮したのがボルト。緊張で自撮りもブレたけれど、世界一速い男は気さくでした」と、こちらは写真撮影に成功したことをうれしそうに振り返っていた。

五輪で初めて設置した栄養サポート拠点

リオデジャネイロ五輪ではそんな豪華な食堂がある一方で、選手村のそばに簡単な和軽食を提供する拠点「Gロードステーション」も作られた。日本オリンピック委員会(JOC)と共同で2003年から選手強化を支援している味の素ビクトリープロジェクト(VP)が、五輪で初めて設けた施設だった。

Gロードステーションで日本代表選手団をサポートした味の素VPチーム(味の素VP提供)

選手村から歩いて10分ほどのGロードステーションは現地時間14~17時と19~22時の間、毎日オープン。予約はいらず、選手たちはいつでも気軽に行き来できた。食材は日本から準備された2トンに加えて、現地でも米1トンや水4トン、納豆3000パックを調達。10人のシェフが調理する。

用意された食事は「白ご飯」と「炊き込みご飯」、「具だくさん汁物」、「温麺(うーめん)」と「納豆」。まさに軽食で、決して豪華なものではない。補食が主目的なため、日本食でちょっとした栄養サポートができれば…という試みで設けられた施設だった。

Gロードステーションで提供された「白ご飯」と「炊き込みご飯」(味の素VP提供)
具だくさんの鍋・汁物は日替わり(味の素VP提供)

それが期間中、まさかのにぎわいを見せた。

関係者も驚いた代表選手10人中9人利用

日本代表の約9割の選手が最低1度は利用した。滞在期間が長い競泳やバドミントンの選手は、ほぼ毎日訪れた。立ち寄る選手は必ず具だくさんの汁物を大盛りにし、プラスご飯でおなかを満たした。デュエットとチームで銅メダルを獲得したシンクロナイズドスイミング(現アーティスティックスイミング)日本代表の井村雅代ヘッドコーチは帰国後、選手らとともに味の素本社へ表敬訪問し「食堂だと思って毎日通って、頼り切っていた」と感謝を伝えた。

味の素VPの関係者にとっても予想外の出来事で、ここまで大盛況になるとは思ってもみなかった。

「正直、度肝を抜かれました。なんであんな食事だけで喜んでくれたのかと…」

現地でサポートした味の素VPの上野祐輝氏が首をかしげた理由は後々、明らかになった。それは、食事が選手のメンタルに大きく関係することを意味していた。【今村健人】(つづく)

Gロードステーションで食事をするバドミントン女子シングルスの奥原希望(味の素VP提供)