<トップ選手のトライ&エラー/3>

栄養バランスを整えれば今より体は強くなる―。頭ではそうと分かっていても、続けることは結構難しい。

東京五輪で11大会ぶり2度目の出場となるハンドボール女子日本代表「おりひめジャパン」も悪銭苦闘の連続だった。2019年の世界選手権で過去最高成績を残すまでに至ったその過程は、一般の人たちにも通じるものがある。彼女らの“失敗”から、栄養に取り組む人たちが学べる教訓を紹介する。

実践しやすくなる分かりやすい言葉かけ

選手と体組成の進捗確認をする味の素VPの管理栄養士、鈴木晴香さん(味の素VP提供)
選手と体組成の進捗確認をする味の素VPの管理栄養士、鈴木晴香さん(味の素VP提供)

国内トップ選手であればあるほど、それまで意識する必要がなかった「食事」。その“落とし穴”に気づいた味の素ビクトリープロジェクト(VP)の上野祐輝氏は、「トップ選手だからできる」という先入観は捨てて、少しずつ理解してもらうことから始めた。

あるトップ選手たちへの勉強会で野菜の大切さを説く際は、こう問いかけている。

「ビュッフェ形式のサラダバーでは、キャベツの千切りてんこもりだけでいいと思う?」

選手の反応を見ながら、続けて言う。

「色濃い野菜を1品でも2品でも入れると、ビタミンがたくさん摂れます。ビュッフェでは1品、それを意識するといいよ。これなら食べられるというものを1つでいいから見つけよう」

細かな栄養素の話をしたところで、覚えられなければ意味がない。ならばと分かりやすく解説する。「子供でもそうですが、トップ選手に対してもこういう話をしています」。

誰にも分かりやすいような説明を重ねながら、選手に落とし込む。大切なことは、理解し意識してもらった上で、実践しやすいように仕向けること。ハンドボール女子日本代表の選手たちのスタート地点を、ここに戻した。

目標設定と必要な行動をセットで考えた

その上で取り組んだのは、具体的な行動目標の策定「アクションチェック」だった。

「どの大会までに、体重を何キロまで持っていくか」

体重や体脂肪率といった体組成の目標設定と、そのために必要な行動をセットで考える。何を、いつ、どのくらい、どうするか…。

「毎日会社終わりか午前練習前にプロテインを1杯追加する」「毎日の朝食に卵を1個追加する」

こうした目標をできたか、できなかったか、毎日○×でチェックする。○が続けば今度こそ、体重はしっかり増えていく…と考えていた。

食べた内容をチェックする選手たち(味の素VP提供)
食べた内容をチェックする選手たち(味の素VP提供)

しかし、これもダメだった。

○が続いたのに体重が増えない。今度の原因は、目的が変わってしまったことだった。

○×にだけ目が向いてしまった逆転現象

目標はあくまでも体重増加。しっかり食べて、補食も摂る。○×は本来、それらを確認するための手段の1つにすぎなかった。

しかし、選手たちの意識は○×をつけることだけに向いてしまった。プロテインを1杯飲んだから○。卵を1個追加したから○。ごく限られた補食1つの行動目標にだけ目を向けて、食事全体への意識がおろそかになってしまった。

「1日トータルの食事量を増やすために、特にここを頑張ろうというための○×だったんですが、そこだけに集中してしまった」(上野氏)。また新しい課題が出てきた。【今村健人】(つづく)