意味のある努力、掘り下げて考える

中本 才能か努力かという話がよくあるが、心理学では、才能と考える人は失敗や困難を避け、努力と考える人は困難を成長のチャンスと考えていると言われています。セオン選手は才能と努力をどう考えていますか。

岡澤 頑張ったら必ず何とかなる、何とかならないことはないと思う。まだ、才能がなかったというほど頑張っていないと思います。

中本 努力で自分は変化すると強く信じているのはとても大事。ただ努力するだけではなく、よく考えて努力することが大切なわけですが、どんな努力の仕方をしていますか。

岡澤 理論的、科学的に、意味のある努力をしなければならないと思っています。目標から何をどうすればどうなるのか、1つ1つ掘り下げていくと、ベースとして栄養なのか、心理なのか、フィジカルなのかということにもつながってきます。

中本 質の高い練習を長期間やった選手が強くなるわけですが、セオン選手は「よく考えられた練習理論」にのっとって、努力を重ねていることが分かりました。自分がなぜうまくいっているのかを自己分析し、改善し、練習で試して自分で合う、合わないを判断して繰り返す、なるほどと思いました。

オンラインイベントに参加した鹿屋体大の中本浩揮准教授
オンラインイベントに参加した鹿屋体大の中本浩揮准教授

岡澤 そのために何をやっていいのか分からない時が悩むときです。でも、それもまた面白く、そこと戦っている最中です。

練習で行き詰まったときの解決法

中本 練習で行き詰まったときの解決法は

岡澤 もうやめた! となること(笑)。自分で自分の機嫌をとってあげることを大事にしています。ボクシングを「常に楽しい」と思ってやっていたいという気持ちが強いので、全然ダメだと思う時に追い込むよりは、元気な時にやろうよ、という感じです。

中本 自分がどうやったら動くのか、気分良くできるのかと考えるのも重要です。トップアスリートは苦しい練習の中に楽しみを感じる人も多いので、自分をやる気にさせるのは難しいことですが、それをできるのがすごいと思います。

岡澤 海外のモチベーションビデオを見たり、高級寿司を食べに行ったり、色々試して自分の機嫌をとってあげようと頑張っています(笑)。

好きだからこそ続ける、だから勝ちたい

中本 好きを極めるか、勝ちにいくのか。

岡澤 好きじゃなくなったら(ボクシングを)やめます。好きをモチベーションとしてやれるなら、勝てると思うから。実際、強い人は「めちゃくちゃボクシングが好きだな」と思います。

中本 好きというのは、モチベーションの中で最も大事。勝って脚光を浴びることが目的だとそれがぶれてしまう。やること自体が強い動機付けになります。

岡澤 だから、勝つためにやるというより、好きでめちゃくちゃやってきて、強くなったんだから勝ちたいと。そこで初めて「勝ちたい」という気持ちが生まれてきます。

アマチュアボクシングをメジャーにする

現在、岡澤は世界ランク6位。五輪への目標設定をどう考えているのだろうか。

岡澤 先日、ロサンゼルス五輪で金メダルを獲得した(プロボクサーの)村田諒太さんのオンライン授業を受けたんです。そこで「金メダルをとった後に何をするのかが大事。金メダルはそれをできる権利を手にすること」と聞いて、モチベーションが上がりました。僕の目標は、アマチュアボクシングをメジャーにすること。東京とパリ五輪、この2大会で2つの金メダルをとり、それを使ってアマチュアボクシングの価値を高めたいんです。

「2019年度JBC年間表彰」で五輪の先輩・村田諒太(左)と記念撮影するベストアマの岡沢セオン(2020年2月7日)
「2019年度JBC年間表彰」で五輪の先輩・村田諒太(左)と記念撮影するベストアマの岡沢セオン(2020年2月7日)

中本 世界を変えるという発想自体がすごい。これを達成した後にどんなご褒美があるのか、やりたいことがあるか、その先の景色を見たいという思いがあるから、強いモチベーションになる。

岡澤 そのため、目標を立てて逆算してやれることをやっています。試合がない年内は、自分ができていないことに取り組み、その後は五輪に向けて現実的な対策をしていく。直前は減量とかも入ってくるし、何ができるのか絞っていく。

中本 あのイチローも、毎年フォームを変えていた。今よりももっと強くなるために考え続け、乗り越えたら強くなる確信があるわけですが、できないことをやっている今は、怖いですよね。

岡澤 めちゃ怖いです。でも、マイナスになることはないと信じてやっている。

両親の接し方、自己責任の持ち方

中本 ご両親はセオン選手に対し、どう接してきたのでしょうか。

岡澤 「自分でやりたいことをやりなさい」が口癖。サッカー、レスリングと色々やりたいことをやらせてもらったけど、ボクシングは反対された。ただ最後は「好きにしなさい」と。実は、鹿児島に来るために内定した企業を断って、ギリギリに報告したので激怒されました。実は応援してくれているんですが、僕自身には突き放したように「好きにしなさい」と。

中本 親御さんのスタンスは最高ですね。自分がやりたいことを自分で決めると自己責任になる。親としては、子どもが自分で決定したことを応援する、このスタンスが一番です。

岡澤 そこまでして貫いたんだから結果を出したいし、認めさせたいと思います。自分で選んだ道ではなければ、失敗したら親のせいにしてしまうので(笑)。

【アスレシピ編集部・飯田みさ代】