恐怖をぬぐい去るため人一倍、練習

プロ1年目だった01年の開幕戦でスタメンマスクをかぶらせてもらった。3日前からの39度の高熱が続いた。実家の近くの診療所で夜通し点滴してもらった。意識がもうろうとしていた。緊張とか、そういうものを超越していた。東京ドームのグラウンドに立ったときに身震いがした。「勝つために」と言えば格好いい。でも「負けないように」のほうが強かった。常勝を義務づけられたチームというのは、捕手として負けちゃいけないと理解した。自信なんか、これっぽっちもなかった。若いときは目の前の現実が怖かった。

恐怖をぬぐい去るためには人一倍、練習をするしかなかった。試合前にたくさん言い訳を考えた。試合後の言い訳は許されない。だから、言い訳を試合が始まるまでに1つ、1つ、つぶしていった。守備も攻撃も、頭と体で、負けないための準備をした。ずっと野球のことばっかりを考えてきた。プロとして当たり前だと思ってきた。

巨人対ソフトバンク 試合後、グラウンドに一礼して引き揚げる巨人阿部(撮影・垰建太)
巨人対ソフトバンク 試合後、グラウンドに一礼して引き揚げる巨人阿部(撮影・垰建太)

個人の記録は「現役を引退してから振り返ればいい」と言ってきた。少しだけ今、振り返ってみると、2000安打も400号もチームに打たせてもらったんだと。打った安打、本塁打より、捕手として打たれたほうがはるかに多い。監督、コーチ、スタッフ、選手が「みんなで勝ちたい」という思いが1本の安打、1本の本塁打につながった。打ったんじゃなくて、打たせてもらった。ありがとう。

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