縁起物・黒豆のいわれ

黒豆の煮物には、一般的には以下のようないわれがあります。

・厄除け(黒色:魔除けの色、悪気をはらう)
・健康(まめに=「丈夫に」「元気に」「健康的」)
・長寿(「まめ」に達者で、しわがよるまで、長生きできますように)

しかし、地域によってとらえ方が違うようです。

関西では「しわが寄らないように、長生きできるように」と丸くふっくら、甘く煮るのがスタンダードですが、関東の一部の地域ではでは、わざとしわができるように、煮立てるところもあります。シワを長寿に見立てて「しわが寄るまで、長生きできますように」という思いが込められてるとのこと。縁起物に変わりはありませんが、色々な意味が込められているのですね。

鉄釘を入れて煮る理由

また、昔の知恵で「黒豆に鉄釘を入れて煮ると色が良くなる」という説がありますが、これは科学的にも証明されています。黒豆の黒色は、アントシアニンと呼ばれる色素。金属イオンの存在で色素の化学的構造を安定化することができるのです(錯イオンを形成)。そのため、鉄鍋で煮たり、古釘を入れたりする方法があります。

同じ豆なのに煮る方法違うのは?

黒豆の煮豆を作るには、まず乾燥した豆に約10倍の水を入れて、半日~1日くらい浸します。事前に水を吸わせる理由は、豆が柔らかくなるまでの加熱時間が短くなり、豆の個体間の硬さやばらつきを抑え、均等に煮えるようにするためです。

一方で、小豆やささげを煮るときは、たっぷりの水で洗った後、ほとんど吸水させずに火にかけてしまいます。小豆などは皮が硬いため、数時間ではほとんど吸水しないからです。

「あんこ」になる豆、ならない豆

小豆→あんこ
枝豆→ずんだ
白いんげん豆(手ぼう豆)→白あん

では、大豆からは“何あん”が作れるのでしょうか?

実は、大豆や黒豆からは「あん」が作れないと言われています。あんは中国語で「食べものの中身として詰めるもの」という意味。粘りがあり、適度にざらついた口触りがあり、まんじゅうのあんなど成型しやすいのが特徴です。

日本あんこ協会の定義によると「食材を煮詰めて練ったペースト状のものが、あんこ」。その粘りを生み出す素は、でんぷんです。この独特な粘りは「あん粒子」が生み出しているものです。

でんぷんとタンパク質とのバランス

小豆の形を見てみましょう。硬い皮の中身は、でんぷんを蓄えている部分(子葉細胞)で、タンパク質とでんぷん粒子は別々に存在しています。吸水して加熱すると、隣同士くっついていた細胞がばらばらにほどけていき、タンパク質がでんぷんを包み込んだ「あん粒子」に変化します。そのままに詰めていくと、でんぷんが外に飛び出して粘り気が出てきます。

米を炊くと、半透明のふっくらしたご飯になり、さらにお湯と一緒に雑炊風にすると、糊のように粘りが出るのと同じ原理。でんぷんの割合が多いサツマイモや栗も、サツマイモあんや栗あんができますが、あんができるかどうかは、「でんぷん:タンパク質=2:1」の比率で含まれることが必要と言われています。小豆は「でんぷん:タンパク質=50:22」の割合なので、あんこにするのはぴったりなのです。

豆は主成分がタンパク質(脂質)が多いか、でんぷんが多いに分かれます。タンパク質が多い豆は大豆や黒豆。でんぷんが多い豆は小豆、えんどう豆、インゲン豆、そら豆、ひよこ豆などがあります。同じ豆でも、あんを通じて、豆の成分や性質が見えてくるのです。

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