<キッチンは実験室(1):お絵かきホットケーキの秘密>

 子ども向け食育ボランティア団体「キッチンの科学プロジェクト(KKP)」の代表・講師の金子浩子さんが、アスレシピのサポーターに加わりました。「キッチンは実験室」と題してウェブ上で、家庭で子どもたちと一緒に食を楽しめるような食育講義をしてくれます。第1回は「お絵かきホットケーキの秘密」です。

ホットケーキの生地を焦がすのは何だ?

お絵かきホットケーキ

 写真を見てください。手作りおやつの定番「ホットケーキ」にお絵かきをしました。さて、何で書いているでしょうか?

 チョコペンではありません。実は、単なる焼き色の違いなのです。

 生地に、「あるもの」を入れると焦げやすくなります。さて、その「あるもの」とは何でしょうか? 

 答えは「ハチミツ」です。ハチミツを入れた生地は焦げやすくなり、逆にハチミツや砂糖が入っていない、甘くない生地は焦げません。

 これは、ハチミツの「糖」と卵や牛乳の「タンパク質」がくっつき、加熱されたことで化学反応が起こり、焦げたのです。この焦げのことを「メラノイジン」、焦げる反応のことを「メイラード反応」といいます。

 食パンをトーストしたときの焼き色や香り、アメ色タマネギのコクのある風味も「メイラード反応」によるもの。ステーキを焼いて茶色く焦げ目がつくのも、味噌を仕込んで2年たつと赤みそになるのも、実はこの化学反応によるものです。

身の回りにもあるメイラード反応
身の回りにもあるメイラード反応

 また、糖の種類によっても、反応が起きやすい(焦げやすい)ものとそうでないものがあります。ハチミツのほか、みりんを使った照り焼きは焦げやすい一方、グラニュー糖は焦げにくいので、スポンジケーキなどのお菓子作りに用いられています。

タンパク質+糖で化学反応

 さて、糖とくっついてメイラード反応を起こすタンパク質は、漢字で書くと「蛋白質」。「蛋」は中華料理の皮蛋(ピータン)から分かるように、「鶏」を意味しています。諸説ありますが、「蛋白」は「卵白」を語源としている、といったものがあります。

 確かに考えてみると、卵(有精卵)がふ化してヒヨコになります。私たちの生命も、元は卵から。卵はタンパク質であり、命のもと。タンパク質が私たちの身体を作る材料であるということは、このような考え方からでも理解することができます。

 私たちの身体はタンパク質からできているので、砂糖をとりすぎれば体内で、焦げの反応、メイラード反応が起きるのです。年齢を重ねるにつれて肌がくすみ、黒ずむのは、体にたまった糖が、少しずつ肌に影響を与えているから。化粧水、乳液…とお肌のケアは外面からするのが普通だと思われていますが、私たちの食生活そのものも影響しているのです。

砂糖のとりすぎは老化につながる
砂糖のとりすぎは老化につながる

 簡単に言うと、砂糖のとりすぎは「老化」につながります。例えば、目(水晶体)に糖が結びつくと、白内障の原因の1つになりますし、血液の成分、ヘモグロビンに糖がたくさん結びつくと、糖尿病の原因の1つになります(糖尿病の指標の1つであるHbA1cもメイラード反応)。

 とはいえ、甘いものを食べると、疲れた時にほっと休めたり、その至福なひとときがコミュニケーションを生んだりしますよね。「糖」は私たちの脳や身体を動かす、直接的なエネルギーで、薬膳の世界では精神安定の作用もあると言われています。

 つまり、大切なのは「食べ過ぎないこと」。何にたくさん含まれているかを確認し、見えない「糖」に気を付けることだと思います。

KKP代表の金子浩子さん(左)
KKP代表の金子浩子さん(左)

 私たちの身体はさまざまなバランスでできていて、多少の食べ過ぎも不足も、うまくカバーしてくれる仕組みができています。小さい頃からの砂糖の過剰摂取は、病気を引き起こす原因にもなりますが、「甘いものを食べ過ぎてはいけません」「お菓子を食べるのは止めなさい」と頭ごなしに子どもを叱っても、止めさせるのはなかなか難しいですよね。そんなときは、このような「美味しい実験」を通じて、食のもたらす役割、食べ方を見直してみる機会を作ってみたらいかがでしょうか。

 食べ物が、身体を作っている。だからこそ食を大切に、楽しみながら、たくましい身体とたおやかな心を育んでいけたらと思っています。

<家庭でできる実験レシピ「お絵かきホットケーキ」>
材料
A.白い生地のもと(背景用)
 薄力粉…100g
 牛乳…100cc
 卵…2個
 ベーキングパウダー…大さじ1
※アレルギーがある場合、牛乳を豆乳に、卵を使わなくても大丈夫です。

B.黒い生地のもと(お絵かき用)
 Aの生地…大さじ3
 ハチミツ…大さじ1

作り方

作り方

(1)Aの材料をボールに入れてよく混ぜる
(2)Bの生地を、ドレッシングチューブに入れて混ぜる
(3)ホットプレート(またはテフロン加工のフライパン)にチューブで絵を描く
(4)1~2分経ったら、絵の上からAの生地をかぶせる
(5)ぷつぷつしてきたらひっくり返す
(6)両面焼けたら出来上がり

金子浩子

子ども向け食育ボランティア団体「キッチンの科学プロジェクト(KKP)」代表・講師
東京薬科大生命科学部卒/群馬大学大学院修士(保健学)。中・高校教諭一種免許状(理科)取得
国際薬膳師・国際薬膳調理師・中医薬膳師。キッズキッチン協会公認インストラクター。エコ・クッキングナビゲーター