揚げ物大好きで野菜ゼロだったのが…
■中西選手のケース
177センチ、70キロ、背泳ぎ
自己ベスト:100m=55秒21(昨年日本選手権準決勝)、200m=2分1秒01(8月東京都特別大会)
高校まで料理経験はなし。いきなりの自炊で「最初は火が怖いし、包丁も怖かった。調味料も分量が分からないから、食べられたもんじゃなかった」。朝食は食堂にある白米、みそ汁だけ、夕食をラーメンだけで済ますことも多かった。
定番おかずは大好きな揚げ物で、野菜はゼロ。「揚げると何でもおいしくなったから、唐揚げとかチキンカツをよく作っていた」。揚げ油は仲間と共有して何日間か使い続けた。
「でも、揚げ物ばかり食べるのは良くないと知ったので、この1年間は全く食べていない」。今ではショウガ焼きが得意料理となり、トマトやブロッコリーなどの野菜も積極的にとるようになっている。
勝ちたい、強くなりたい。そのために良いことは取り入れるし、良くないことは排除する。腹落ちしたら即実行。明確なロジックで食事を改善したことで「体が締まり、泳ぐ感覚が違ってきた。練習中、足がつることが多かったけど、気づいたらなくなっていた。ラスト1本まで全力で泳げるようになった」と良いこと尽くめだったと、人懐っこい笑顔を見せた。
レースでも好不調の波が大きかったが、「試合当日の食事を教えてもらったことで、安定した成績を出せるようになった」と毎回タイムを上げた。ムードメーカーでもあり、試合中も後輩たちに「あんパン食べておけよ」などと、エネルギー補給の声がけもした。
100m背泳ぎのインターハイ王者であり、最後のインカレでも優勝を狙っていたが、明大の1年生、松山陸に2冠を奪われ、2位。しかし、「あのタイムで泳げたなら悔いはない」と完全燃焼できたと言い切った。
■担当AFM・高槻吉美さんのコメント
おそらく中西くんは、作るのは嫌いでしょう(笑)。好き嫌いはないので、出されたら何でも食べるタイプ。飲み込みも早いけど、料理が好きじゃないので続かない。バランスの良い食事をどう継続させるかがポイントでした。なので、惣菜を買うとか、中食で補ってもらうようにしました。また、糖質補給の時間がよくなかったので、練習前後、どのタイミングでとるべきかを伝えたところ、スタミナ切れがなくなったようです。好きなラーメンもやめたし、脂質過多もなくなってフルーツもとるようになりました。知識がついてくると、知りたいことを集中的に聞いてくるようになり、インカレ前あたりでは、こちらが指導する必要がないほど。「完璧です。返す言葉はありません」などと返信するだけになりましたね。
■永島選手のケース
181センチ、75キロ、平泳ぎ
自己ベスト:100m=1分66(10月インカレ)、200m=2分10秒75(8月東京都特別大会)
主務も兼任する永島は、小学生の頃から「万年4位」として、全国レベルの大会では1度も表彰台に上ったことがないのがコンプレックスだった。「3年までチームに貢献もできていなかったし、自分に自信がなくて、目標も低かった」。
個人サポートを受けるようになったのは今年6月から。栄養セミナーで基本的な知識を学んでおり、本庄主将らと一緒に買い物や食事をとることでサポート内容も知っていたが、強化選手に選ばれたことの責任から一層、意識を高めるようになった。栄養的な側面だけでなく、自分でYouTubeなどの人気料理家の動画を見ておいしさも追求。エビチリのアレンジ版「鶏ささみの鶏チリ」が得意メニューだ。
スイマー人生最後のレースは、インカレ最後の個人種目でもある200m平泳ぎ。今大会では100mも4位、メドレーリレーでも4位。「また4位かも…」と一瞬、悪夢がよぎったが、仲間の大声援を受けながら人生最高のレースを展開した。3位。初めて全国大会で表彰台に上った。
「どうせオレなんかと、ひねくれていた時もあったけど、監督と仲間を信じて、食事の指導も受けて、最後にこんな結果を出せて本当に良かった」と喜びをかみしめた。200mで五輪金メダルを狙う佐藤翔馬(慶大2年)が世間から注目され、快勝したレースの裏には、こんなドラマもあったのだ。
■担当AFM・貴田都代子さんのコメント
最初に会った時、「ケガなく最後まで楽しくやるのが目標」と言っていて、勝つことに貪欲なイメージがなかったので、料理を作るのが楽しいと思えるように取り組み始めました。几帳面で素直で、ご飯が好き。栄養面については、数字で表すのが分かりやすかったようです。例えば、試合当日のスケジュールに沿って、どこで補食を入れるかについては、糖質○グラム必要だから、おにぎりを□個とろうといった具合に伝えると、おにぎりではなくてあんぱん△個でもいいですか、といったやりとりになり、意識の高さを感じました。