合宿で泣きながら食べていたジュニア時代
実は、吉田は「食事が苦手」。ジュニア時代から身長は高かったものの細身で「胃袋も小さかった」。スイミングクラブの合宿の食事は、いつも食べ終わるのは最後。「練習よりも食事が辛くて、泣きながら食べていた」と振り返る。
「家でもしっかり食べさせてください」と、コーチから言われた梅子さんは「どうにかして食べさせなければ…」と胃に負担をかけずに食べられる料理、栄養バランスが整った献立を工夫するようになった。素材にもこだわり、できるものは手作りする。みそは、父耕司さん(62)の地元、静岡・磐田市産の大豆で作った豆みそが吉田家の味だ。
飲み物はオレンジジュース、牛乳とお茶だけ。上の子2人が成長期の時は1週間に牛乳を10本購入したが、次男と8歳離れた三男坊が毎日、1本ずつ飲んだ。
睡眠時間もたっぷり確保した。「小さい頃は自分の部屋ではなく、携帯電話もなかなか買ってもらえなかったので、夜は寝るしかなかった」。トレーニング、栄養、休息の3つがうまくかみ合い、トップスイマーになるべき体が作られた。
普段の朝食はプールサイドでおにぎり
とはいえ、吉田は今でもあまり朝食を食べられない。普段は練習前にプールサイドで、梅子さんが握った1個70g程度のおにぎり4~5個とパンが定番だ。おにぎりは「糖質+タンパク質」が意識され、具はシュウマイ、焼き豚、じゃこ入り、肉巻き、枝豆、サケとゴマなど様々。吉田の最近のお気に入りは「枝豆おにぎり」だという。
日本選手権は、東京・佃の自宅から会場へ向かう。いつもと変わらぬ「必勝おにぎり」を持たせて、梅子さんは送り出す。
毎日の食事やおにぎり。当たり前になればなるほど、込められた思いに気付きにくい。話しながら、母の愛情にハッと気付いた吉田が「母には…」と口にすると、「感謝してくれているのは分かっています。(作ったものを)食べてくれているだけで、ありがたいんですから」と梅子さんが言葉を挟んだ。ここで直接我が子から、そんな言葉をもらったら、大粒の涙がこぼれてしまう…赤くした目を隠すように、梅子さんは背を向けた。
【アスレシピ編集部・飯田みさ代】
■男子800メートルリレー代表への道
日本選手権の200メートル自由形決勝で次の要件を満たすことが条件。代表選手は、日本選手権終了後に発表される。
(1)リレー派遣標準記録(7分08秒31)を上位4人で突破した場合、その4人が代表となる。
(2)(1)がクリアできなかった場合は、リレー派遣標準記録の1人平均(1分47秒08)を突破した選手が代表となる。
(3)(2)で選考されないリレー選手は、個人種目で選考された選手及び、200メートル自由形決勝の上位4位に入った選手の中から選考委員会が選考する。
◆吉田冬優(よしだ・ふゆ) 1997年(平9)11月23日生まれ。千葉出身。兄2人の影響で2歳からスイミングを始める。佃中-淑徳巣鴨高-明大。全国中学大会100メートル自由形で優勝。インターハイで100メートル、200メートル自由形ともに優勝。インカレでは17年に400メートル、19年に200メートル自由形で優勝。16年アジア選手権800メートルリレー優勝。18年世界選手権代表選手選考会で400メートル自由形を制し、世界短水路選手権へ出場。父耕司さん(62)、母梅子さん(63)、兄2人。