「会食恐怖症」という言葉を聞いたことがあるだろうか。人とご飯を食べることが怖くなる社会不安障害の症例とされていて、男女問わず、幅広い年代で悩みを抱えている人がいるが、子どもが悩むケースが増えている。原因や症状は様々だが、その根底には「行きすぎた食育」がある。

子どもの食欲がない、小食だ、と悩む保護者は少なくないが、食べない理由を把握しているだろうか。たっぷり運動して疲れた、眠い、暑くて食欲が沸かない、料理が食べづらい、苦手な食べ物が多いと、理由が明らかならいいが、精神的な重圧から食べられなくなっているということもある。

「会食恐怖症を卒業するために私たちがやってきたこと(内外出版社)」の著者、山口健太さんもその1人だった。

強制指導で食べることがプレッシャーに

高校時代は、硬式野球部に所属。マリナーズ菊池雄星投手、エンゼルス大谷翔平選手を輩出した花巻東ともよく練習試合を組む強豪チームで、食事からの体作りも熱心に指導されていた。

入学時は身長160センチ台で、体重は40キロ台後半。当時、「60キロ以上の選手しか打撃練習ができない」という規則があり、自分なりに増量のために食べる量を増やしていた。

高1の秋の合宿の時だった。食事のご飯は朝2合、昼2合、夜3合がノルマ。静まり返った中で食べなければならず、不安と緊張からたくさんの量を食べることができなかった山口さんは、監督から大勢の前で叱責されてしまった。

これがきっかけで「食べること=プレッシャー」となり、その後、他人との食事を想像しただけで不安に駆られ、吐き気をもよおすようになってしまったという。「食べたいのに食べられない、仲間と一緒に頑張りたいのに体が言うことをきかない。歯がゆさ、疎外感がものすごくあった」と山口さんは振り返る。

その後、自分の症状に当てはまると思われる「外食恐怖」という言葉をインターネット上で知った。乗り越えた今は「(一社)日本会食恐怖症克服支援協会」の代表理事として、同じ症状で悩む子どもたちを500人以上サポートし、食育カウンセラーとしても、その母親や家族にアドバイスを送っている。

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