最近、精神的なストレスが一因となる「疲労臭」が注目されています。40代前後の子育て世代は男女とも「ニオイ」が気になるお年頃ですが、一般的に知られている汗臭や加齢臭、ミドル脂臭とは違い、「疲労臭」は洗っても落ちないニオイで、女性にも多いと言われています。

気付かないうちに不快なニオイを発していたら怖い…ということで、疲労臭とは一体どういったものなのか、ニオイ研究の第一人者である東海大学理学部化学科の関根嘉香(よしか)教授に話を聞きに行きました。【取材:アスレシピ編集部・飯田みさ代】

研究室で笑みを浮かべる関根教授
研究室で笑みを浮かべる関根教授

皮膚ガスが体臭の素、3つの由来

関根教授によると、人間は生きている限り、皮膚からガスを発しています。この「皮膚ガス」が体臭の素となるわけで、3つの由来があります。

関根教授の資料から
関根教授の資料から

1つ目は、皮膚の表面にいる常在菌が汗の成分や皮脂を酸化、分解してガスが発生する「表面反応由来」。加齢臭やミドル脂臭はこれに相当し、主に、後頭部や耳の周辺、背中や胸など体の中心部からニオイを発します。

2つ目は、汗に含まれる酢酸などの成分が原因の「汗腺由来」で、汗をかいたとき、主に脇や足裏から発する酸っぱいニオイというと分かりやすいでしょう。

3つ目は、血液の中を流れている成分がそのまま皮膚の表面から放散される「血液由来」で、疲労臭はここに当てはまります。「『表面反応由来』や『汗腺由来』のニオイは皮膚の表面を洗えば落とすことができますが、『血液由来』は体の中を改善しない限り、消すことができません」と関根教授が説明するやっかいなニオイです。

疲労臭の原因は尿と同じ「アンモニア」

疲労臭のもとは「アンモニア」のため、そのニオイは尿のアンモニア臭と同じく、ツンとした刺激臭です。

私たちが肉や魚などを食べると、タンパク質やアミノ酸が消化分解され、アンモニアが作られます。アンモニアは有毒のため、肝臓で無毒の尿素に変えられて尿から排泄されますが、その一部が血液中に流れ込んでしまい、全身を巡るうちに皮膚ガスとなって放出されるのです。

誰でも皮膚表面から微量のアンモニアを排出していますが、何らかの原因によって血中アンモニア濃度が高まると、あの独特な刺激的なニオイとなって漂います。その原因としては次のことが挙げられます。

多忙な人こそ注意、疲労臭の原因5点

疲労臭の原因

(1)筋肉疲労(運動、ケガ)
(2)精神的ストレス
(3)肉や魚などに偏った食事(タンパク質はアンモニアの原料)
(4)肝機能の低下(酒の飲み過ぎ=アンモニアは肝臓で解毒)
(5)腸内環境の悪化(便秘など)

この5つに思い当たる節はありませんか。仕事、子育て、家事などで日々忙しい母親たちはコロナ禍で一層ストレスが加わり、皮膚から発するアンモニアの量が増えている可能性があると言われています。

疲労臭は全身から放出されますが、最も出やすいのが足の裏(特にかかと)。「きれいに洗った足の裏のニオイを嗅いでみて、鼻につくニオイがしたら要注意です」(関根教授)。いわゆる「足のニオイ」とは違うニオイがしていないか、気になる方はお風呂上がりに自己チェックしてみてください。

関根教授の資料から
関根教授の資料から

疲労臭の予防と対策

ではどうしたら疲労臭を抑えられるのか、対策としては次のことが挙げられます。

疲労臭の対策

(1)規則正しい生活(食事や睡眠時間の確保)
(2)ストレスを軽減する
(3)アンモニアの解毒を助けるオルニチンの摂取
(4)毎晩、就寝前に10~20分湯船につかり、リラックス、血行促進
(5)腸内環境の改善(ラクチュロース、ビフィズス菌摂取)
(6)疲労臭を知る(自分のニオイは分かりづらいのが難点。足裏をかいでも分からない場合は、他人にかいでもらう)

大腸のビフィズス菌と関連も

関根教授は、疲労臭の発生メカニズムに「大腸」が大きく関わっていることを研究で明らかにしており、上記の対策6点の中でも(5)の腸内環境の改善を勧めています。大腸内のビフィズス菌が多いほど、皮膚からのアンモニア放散量が少ない傾向があることが分かったというのです。

研究では、ビフィズス菌のエサとなる、牛乳に含まれる乳糖からできるオリゴ糖の一種「ラクチュロース(ミルクオリゴ糖)」を継続的に摂取させたところ、ビフィズス菌が増えて短鎖脂肪酸をより多く産生。大腸内を酸性側に傾けることで、アンモニアを血中に移行しにくい形(アンモニウムイオン)にして、皮膚からの発生を抑制したと考えられています。

さらにこの研究で疲労臭以外の「体臭」の増減も調べたところ、「ラクトン」という若い女性に特徴的な皮膚ガスが増加することも判明したといいます。ラクトンは10代をピークに、加齢によって放散量が減少し、40代以降はほとんど放散されなくなります。種類はいくつかありますが、中でもγ-デカノラクトン(C10)、γ-ウンデカノラクトン(C11)は「桃の香り」の成分でもあり、「腸内が整っている人は桃の香りがする」と表現されることもあります。

関根教授の資料から
関根教授の資料から

そのような話を聞きながら、私は一体、どのくらいの疲労臭を発してしまっているのか、腸内環境はいかがなものなのかと疑問が沸いてきたため、調べてもらうことにしました。

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