<スポーツする人の栄養・食事学/第2章 スポーツをする人はなにをどう食べたらいいのか(8)>

Q、無理なく減量するために、食事で気をつけなければいけないことはなんですか?

A、減量といっても、ただ体重を減らせばいいというわけではありません。特にスポーツをする人が減らすのは体脂肪量で、同時に筋量まで減らしてしまってはパフォーマンスは低下します。減量中でも、たんぱく質はしっかり摂取、高脂肪の食品を低脂肪の食品に替える、体の調子を整えるビタミンやミネラル類が不足しないように野菜を多くとるといった食事法を心がけます。

柔道やレスリング、ボクシングなど体重別に階級が決められている競技の選手は、その範囲内の体重に収めなければ試合に出場できません。体重制限のない競技でも、パフォーマンスをより向上させることを目標にウエイトコントロールはよく行われ、苦闘する選手も少なくありません。

上の図は、競技種目別に、どのような目標でウエイトコントロールを行うと、どのようなパフォーマンスの変化が期待できるのかを示したものです。この図からも分かるように、増やしたり減らしたりしなければならないのは筋量や体脂肪量であって、体重はその結果として示されているものなのです。

ウエイトコントロールには、体重を減らす減量(ウエイトロス)と、体重を増やす増量(ウエイトゲイン)がありますが、まず、減量のための食事の基本から解説しましょう。

減量のための食事の基本

競技種目の特性によって異なりますが、より速く、より高く、より遠くを目指すためには、筋量を増やすか、その減少をできるだけ抑えつつ、体脂肪量を減らして重力や抵抗力の影響を極力小さくしなければなりません。

減量というと、ただ体重を減らせばいいと思い込んでいる人がいるようですが、特にスポーツをする人にとっては減らすのは体脂肪量であって、同時に筋量まで減らしてしまっては元も子もありません。ここを間違えると、パフォーマンスは低下し、健康を害してしまうおそれすらあります。

市販の体組成計を使えば、体脂肪率(体脂肪量の体重に占める割合)、骨格筋率(骨格筋量の体重に占める割合)、内臓脂肪レベル(内臓脂肪の面積の大小)、皮下脂肪率(皮下脂肪量の体重に占める割合)といった身体組成や、基礎代謝(生命維持に必要なエネルギー消費量)まで推定でき、自分の体のおおよその状態を知ることができます。

くり返しになりますが、減量の目標は体脂肪量を減らすことですから、毎日決まった時間に体重だけでなく体脂肪率を測定し、その結果を記録し、いつでも変化を確認できるようにするとよいでしょう。

長期的に緩やかに行うのがコツ

減量では、食事によって、エネルギー摂取量を減らすかエネルギー消費量を増やすか、またはその両方によって負のエネルギーバランスをつくり、それを維持することが求められます。絶食や過度の脱水などの過激な方法、あるいは数日から1週間といった短期間での減量は、パフォーマンスの低下や疲労感、体温調節機能の低下を招くことから、けっしてすすめられるものではありません。

エネルギー消費量が摂取量を上回るその差は1日あたり250~500kcalほどまでとして、必要な栄養素を不足させることなく3~6週間以上をかけて緩やかに行うのが望ましいとされています(国際オリンピック委員会のスポーツ栄養コンセンサス、アメリカスポーツ医学会等がつくる関連団体による公式見解)。

減量にはある程度時間がかかるため、試合期に行うことは避け、体重が大幅に増えないように年間を通じてウエイトコントロールを心がけたいところです。

食事や飲水の急速な制限による減量では、体水分、グリコーゲン(糖質)、グリコーゲンに結合する水分が失われ、脱水によって前出のようなリスクが高まります。減量の幅は体重の5~8%未満にとどめます。減量の幅が小さいほど、計量後試合開始までのコンディションの回復度合いは大きくなるからです。

栄養素から見る食事のポイント

減量にあたっての食事のポイントは、以下のとおりです。

<糖質>
最近、糖質を制限した減量法が話題になっていますが、筋肉を動かすエネルギー源である糖質を極端に制限することはエネルギー不足によるパフォーマンスの低下を招くために適した方法とはいえません。むしろ、運動量が多いスポーツ選手の場合は、減量中であっても、運動前に糖質を含んだ補食を摂取して運動中の糖質不足を回避することがすすめられています。糖質の摂取を減らしたいのであれば、運動とは直接関係のないタイミングで間食としてとっている、糖質を含んだ菓子類や飲料を制限したほうがいいでしょう。

<たんぱく質>
筋肉や血液など体の組織や細胞をつくり、体の調子を整えるたんぱく質は、減量中でもしっかり摂取するようにします。高たんぱく質の食事をしながら筋トレをすれば、体脂肪を除いた除脂肪体重が増加します。減量中の1日の適正摂取量は、体重1㎏あたり1・6~2・4gですが、エネルギー制限が大きく減量のペースが速い場合には多めにします。

<脂質>
脂質(中性脂肪、リン脂質、コレステロール)は、とりすぎれば皮下脂肪や内臓脂肪が蓄積して、肥満や脂質異常症につながるため、減量といえば低脂肪食で、脂質の摂取量を減らすのが定番となっています。

しかし、脂質は細胞膜の構成成分であり、ホルモンの材料にもなり、さらには低強度の運動ではパフォーマンスを維持するエネルギー源としても有効です。1日の総エネルギー摂取量が2000~3000kcalの場合の適量は1日50~80g、1日の総エネルギーの25%程度が目安とされていますが、長期にわたって過度に減らすのはかえって問題です。特に、油脂の摂取を極端に制限すると、油と一緒に摂取すると吸収率が上がる脂溶性ビタミン(ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK)や、体内で合成できないため食事からしか摂取できない必須脂肪酸(リノール酸、α─リノレン酸)の摂取量が大きく減ってしまいます。

脂質を極端に制限すれば食事全体のバランスが崩れてストレスもたまり、減量のモチベーションも下がってしまいます。したがって、脂質をいっさいとらないようにするのではなく、高脂肪の食品を低脂肪の食品に替えたり、油を使わない調理法を取り入れたりする工夫も必要でしょう。

<ビタミン・ミネラル類>
減量時には、糖質、脂質、たんぱく質の代謝を助けるビタミンやミネラル類が不足しないように野菜を多くとって満腹感を得るように心がけます。

ビタミンB1、B2、B6は、それぞれ糖質、脂質、たんぱく質から体内でエネルギーをつくり出す(代謝)ときの調整役として重要な役割をしています。また、ビタミンCは、鉄(非ヘム鉄)の吸収や抗酸化作用に関わり、コラーゲンの生成にも役立ちます。さらに、ビタミンDは、カルシウムやリンの吸収を促進します。

また、筋肉の機能を正常に保つナトリウム、カルシウム、カリウム、筋肉の収縮に関係するリン、体内でのエネルギー産生に役立つ鉄、たんぱく質や核酸の合成に役立つ亜鉛などのミネラル類も、毎日の食事できちんと摂取するようにしましょう。

ところで最近、低糖質・高脂質(脂肪)の食事が、ダイエットに用いられています。「高脂質なのにダイエット?」と疑問に思われるかもしれませんが、高脂肪食は筋肉の持久力に関連するミトコンドリアを増やす効果があることから、持久力を必要とするアスリートから注目されています。

さらに、血中のケトン体(アセトン、アセト酢酸、β─ヒドロキシ酪酸)の濃度が高まる「ケトン食」に関する研究も進められています。低糖質・高脂肪の食事によって、糖質の摂取を極端に減らし、代わりに多く摂取した生体内の脂肪が分解されて生じるケトン体をエネルギー源として使おうというものです。

しかし、ヒトを対象にした研究では、明確な抗疲労効果やパフォーマンス向上効果は認められていませんので、減量のためにケトン食を安易に導入するのはすすめられません。

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