<体力の正体は筋肉/第5章:下半身と体幹の筋肉をきたえなさい(6)>

全身持久力を高めるウォーキング

ウォーキングは、全身持久力を高めてくれる有酸素運動の定番です。人間の特権であり、もっとも基本的な移動の方法である「歩き」によるトレーニングも、選択肢の1つに加えてみてはいかがでしょう。

ところで、素朴な疑問ですが、私たちはなぜ長く歩き続けることができるのでしょうか。

固定された点から糸でつるされたおもりを、糸がゆるまないようにして引っぱりあげてから放すと、行ったり来たりの動きをくり返します。この「振り子運動」は、空気抵抗や摩擦エネルギーなどがなければ永久に続きます。

この運動が、歩くときに両脚で交互に行われています。 脚をうしろに振り上げると位置エネルギー(高さ)が生まれ、それが運動エネルギー(速さ)に変換されて脚が前に振り出されるかたちになるのでエネルギーの消費量は小さくて済み、長く歩き続けることができるというわけです。

歩くときに使われる筋肉の図

ウォーキング中は、抗重力筋のおかげで直立姿勢を保ったうえで、上記の図のように下半身と体幹のさまざまな筋肉が働きます。

歩くときに使われる骨格筋の機能は、なにもしなければ加齢とともにどんどん低下します。そうなると、歩く速度は急激に遅くなり、歩幅もとても狭くなって、歩行能力にマイナスの影響が出て自立した生活ができにくくなります。

ウォーキングでは、速筋線維よりも遅筋線維がメインで使われているために、筋トレのような筋力アップの効果だけを期待することはできません。

しかしながら、有酸素運動は全身持久力を高めるほか、内臓脂肪の減少、高血糖、脂質異常、高血圧の改善、ストレス解消(心のリフレッシュ)といった効果は十分期待できますから、ウォーキングをおすすめする理由は十分にあります。

ウォーキングは安全に楽しむ

ウォーキング人口が多いのは、日常生活に取り入れやすく、特別の道具や技術を必要とせずに、どの年代の人でもどこでもすぐにできて、運動量や運動の強度を自分で調節できるからです。

会社勤めをしていて、平日にはウォーキングのための時間がとれないという人でも、方法はあります。

エレベーターやエスカレーターを使わずにできるだけ階段を歩く、近い距離の外出には乗り物に乗らない、自宅から最寄り駅まであえて遠回りするコースを歩く、自宅や会社の最寄り駅より1つ手前の駅で乗り降りして歩くようにするなど、日々わずかでも歩数をかせぐように工夫する―。

「さぁ、これからウォーキングするぞ!」と、わざわざ出かけるまでもなく、こうした通勤のついでの小さな積み重ねによって「歩行が日常化」すれば、間違いなくトレーニングとしてのウォーキングと同じ効果があります。

よく「1日1万歩は歩かないと効果がない」といわれていますが、なぜなのでしょう。

『健康づくりのための身体活動基準2013』(厚生労働省運動基準・運動指針の改定に関する検討会)で、生活習慣病を予防するのに効果がある身体活動量を歩数に換算すると1日8000~1万歩になる、というのがその根拠のようです。

ただ、毎日のこの歩数は、多忙な現役の世代にとって現実的ではありませんし、1万歩を歩くこと自体、正直いってかなりきついものがあります。1万歩を目標に無理をしてしまうとオーバートレーニングになり、ひざや腰を痛めることにもなりかねないですから、あくまで目安と考えたほうがいいかもしれません。

「ひざが痛い」とある整形外科で診察を受けた男性は、問診の結果、毎日2万歩近く歩いていたと聞いて驚きました。歩数をかせげばいいというものではありません。

ウォーキングの効果は、まとめて歩かなくても、小分けにしても変わりません。毎日の通勤を工夫してできるだけ歩数をかせぎ、少し足りないと思ったら週末の休みに時間をとって補い、1週間単位で帳尻をあわせて目標とした歩数を達成するという方法でもかまいません。

特に暑い季節には、ウォーキング中の水分補給は絶対に忘れずに。いっぽうで、冬季には万全の防寒対策が必要です。動きやすい服装、フィットした靴を着用して、まずは坂道の少ない歩きやすいコースで行いましょう。

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