<甘味料の話・1>

「果糖は太る」といった言葉を聞くことがあると思いますが、なぜそう言われるのでしょうか。果糖(フルクトース)について、同じ単糖類のブドウ糖(グルコース)と比較しながら説明していきましょう。

まず、ご飯などに含まれる炭水化物には、糖質と食物繊維が含まれます。糖質は、糖類(単糖類、二糖類)、多糖類、糖アルコール、その他に分けられ、糖類の中の単糖類にブドウ糖や果糖などがあります。

甘味が強い果糖、果物以外で含まれるもの

果糖はそれ以上分解されない1分子の糖類で、果物などに多く含まれます。ブドウ糖と結合すると砂糖(ショ糖)になります。

実は、私たちは果物を食べなくても、日頃から果糖を口にしています。砂糖やブドウ糖よりも甘味度が高いため、清涼飲料水や乳飲料、調味料などに「果糖ぶどう糖液糖」「ぶどう糖果糖液糖」「高果糖液糖」といった異性化糖として、使われているからです。

体内での果糖の働き、余ってしまったら

それでは、果糖は体内でどのような働きをしているのでしょうか。

ブドウ糖は小腸で吸収された後、血液中に入ります。この時、血糖値が上がりますが、全身に運ばれ、すい臓から分泌されるインスリンによって筋肉でエネルギーとして利用されます。すぐに利用されないブドウ糖は肝臓にグリコーゲンとして貯蔵され、余った分は中性脂肪(トリグリセリド)となります。

一方の果糖は大方、肝臓で代謝されます。インスリンの分泌をほとんど必要としないため、血糖値を上げません。ブドウ糖よりも吸収速度が遅いこともあり、「太りにくい」と考えられがちですが、代謝後はブドウ糖に変換されます。また筋肉では、そのまま細胞内のミトコンドリアでリン酸化され、ブドウ糖と同じくエネルギーとして利用されます。

さらに、果糖は中性脂肪の合成を促進します。エネルギーとして速やかに利用されず、余ってしまった果糖は内臓脂肪、皮下脂肪、肝臓に蓄積され、肥満や脂肪肝を引き起こします。

蓄積された内臓脂肪はインスリンの働きを妨げるため、食後高血糖が起こりやすくなります。また、脂肪肝により肝臓での糖新生(ブドウ糖を作る)が亢進し、空腹時の血糖値も上昇するため、糖尿病の悪化につながるのです。

脳に入らない果糖、満腹感を得られず

果糖は尿酸の生成も促進し、排泄を抑制します。高尿酸血症や痛風発作経験のある人は過剰摂取に注意しなければなりません。

その上、果糖はブドウ糖と違って脳に入らないため、脳のエネルギーにはなりません。つまり、頭が働きにくく集中力が欠ける時に、果糖を摂取しても効果はないのです。ブドウ糖と違って小腸で食欲を抑えるGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)も分泌されないため、満腹感も得られません。そのため食べ過ぎてしまうことになり、「果糖は太る」「果糖は体に悪い」と言われているのです。

ブドウ糖と果糖との違い

項目 ブドウ糖 果糖
甘味度(砂糖=1.0に対し) 0.7~0.8 1.2~1.7
1g当たりのエネルギー 3.42kcal 3.75kcal
吸収速度 早い ブドウ糖より遅い
インスリン分泌 強い 弱い
血糖値 急上昇 急上昇はないが、上昇
GI値 100 20~29
肝臓での代謝 果糖より遅い 早い
中性脂肪値 上昇しにくい 上昇する
脳のエネルギー なる ならない
尿酸値 上昇しにくい 上昇する
虫歯のリスク あり あるが単体ではなりにくい

果物を食べると太るのか?

これを読むと、果物を食べるのを控えたくなるかもしれませんが、「果物が体に悪い」「果物を食べると太る」ということではありません。

果物には果糖だけでなく、砂糖やブドウ糖など他の糖も多く含まれていますし、ビタミンCや食物繊維、カリウムなど有用な栄養素も多いため、適量を摂れば健康につながります。目安は1日100~200g、バナナやオレンジなら中サイズ1個程度、手のひら一杯分の量です。果物そのものを食べるなら、そこまで過剰摂取にはならないでしょう。

むしろ気を付けなければならないのは、果物以上に果糖を多く含む清涼飲料水や菓子類の飲み過ぎや食べ過ぎです。暑い季節は、ついジュースを飲みたくなりますが、砂糖やブドウ糖だけでなく、知らないうちに果糖を過剰摂取しているかもしれません。ちょっと太り気味だと思った方は、食品表示を確認し、食生活を見直してみてください。

管理栄養士・今井久美