日本人は昔から魚を多く食べており、いろいろな魚をバランス良く食べることは栄養的にも好ましいとされています。しかし、最近では「魚離れ」が進んでおり、特に妊婦は避ける傾向にあるともいわれています。

その理由の1つが「水銀」です。食事から摂取される水銀の80%以上が魚由来のメチル水銀で、妊娠時はその水銀が胎児に蓄積され、おなかの赤ちゃんの神経発達に悪影響を及ぼす可能性があるため、水銀を多く含む魚の摂取は、量と頻度に注意して食べましょうというものです。

妊婦は特に注意、水銀を多く含む魚

どれだけの量を食べると胎児に影響がでるのか、今のところ明確な答えは出ていません。ただ、生まれる赤ちゃんの健康を最優先に考え、世界各国で妊婦に注意を呼びかける動きが見られ、日本でも平成15年から厚生労働省が注意喚起を公表しています。その後、数回にわたり内容が見直され、今では下記の情報がホームページなどで掲出されています。

厚生労働省のパンフレット「これからママになるあなたへ」の表紙
厚生労働省のパンフレット「これからママになるあなたへ」の表紙

※厚生労働省のパンフレット「これからママになるあなたへ」
https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/suigin/dl/100601-1.pdf

水銀を多く含む魚、含まない魚

水銀を多く含む魚は比較的大きな魚です。イルカやクジラも含めると、バンドウイルカ、コビレゴンドウ、金目鯛、メカジキ、クロマグロ、メバチマグロ、マッコウクジラ、ツチクジラ、マカジキ、ユメカサゴ、クロムツなどで、食物連鎖の影響で大きな魚ほど水銀が蓄積されています。

このパンフレットでは、これらの水銀を多く含む魚を食べる際の1回の量と、1週間に何回程度食べても良いかなどが明記されています。一方で、食べても水銀量を意識しなくても良い魚として、キハダ、ビンナガ、メジマグロ、サケ、アジ、サバ、イワシ、サンマ、タイ、ブリ、カツオ、ツナ缶などを挙げています。

水銀が体に入るとどうなるのか

水銀が体内に入ると、小腸で吸収されて血液に入り、「血液脳関門」という毒性物質を遮断する脳の関門をくぐり抜けて脳に蓄積されます。水銀が過剰蓄積すると、神経細胞の破壊、脳の発達不足、味覚障害、運動障害などが起こります。

具体的には、軽いものでは手足のしびれ、症状が進むと歩行時のふらつきや、つまずきやすくなり、重症になると、話しづらくなる、味やにおいが鈍くなる、見えにくくなるという症状が生じます。水銀といえば、50年以上も前の公害病、水俣病が有名です。工場排水に含まれたメタル水銀が海中の貝や魚に蓄積され、汚染された魚介類を食べた近隣の住人から手足のしびれ、こむら返り、手の震えなどの中毒性中枢神経系疾患が集団発生しました。

妊婦以外はたくさん食べてもいいのか

では、妊婦以外は魚の水銀量に気を使わなくても大丈夫なのでしょうか。幼児や小児、成長期のアスリートやEPA、DHAの摂取のため魚料理を増やしている方は、水銀の過剰摂取になることはないのでしょうか。

水銀を多く含む魚は比較的大きな魚が多いので、食べる量や頻度を注意しましょう
水銀を多く含む魚は比較的大きな魚が多いので、食べる量や頻度を注意しましょう

前述した厚生労働省のパンフレットにも記載されていますが、私たちが普段の食事で体に取り込んでいる水銀量は、健康に影響を与えないと考えられる最大量の57%で、小児以降になると、取り込まれた水銀は徐々に体外に排泄されるため、平均的な食生活をしている限り、健康被害はないようです。

乳幼児は、水銀の体外への排泄能力が不十分のため、特に水銀が多いイルカやクジラの摂取は避け、妊婦同様に水銀を多く含む魚の摂取頻度が多くならないように気をつけましょう。保育園などの給食では、水銀を多く含む種類の魚の使用は少ないので心配は不要です。

魚にはタンパク質、ビタミン、ミネラルなど私たちに必要な栄養素がたくさん含まれています。水銀を心配して「魚は食べない」となるよりも、食べるように心がけた方が多くのメリットがあります。ただし、魚の摂取量が多い人(目安として毎日、手のひら大2切れ以上)、水銀を多く含む魚の摂取頻度が高い人、継続的にこれらを多く摂取している人は、水銀の多くない魚も選びつつ、魚を摂ると良いと思います。

※厚生労働省「魚介類に含まれる水銀の調査結果」
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/05/dl/s0518-8g.pdf

管理栄養士・今井久美