<選手のための餃子づくり/下>

ご飯を多く食べられない―。そんな悩みを持つトップアスリートは数多くいる。フィギュアスケートの羽生結弦(26=ANA)も有名な1人だ。その羽生がふと漏らした言葉から生まれた企画。それが「アスリートのための『餃子作り』」だった。脂っこいイメージが強くて試合直前に食べてはいけない餃子のイメージを懸命に覆した開発秘話の後編。開発に取りかかってから10カ月。試行錯誤の末に完成した2つの餃子はどのように作られたのか―。

皮を厚めにし、炭水化物もしっかり摂れるエナジーギョーザ

①脂質を抑えること、②おいしいこと、③エネルギー摂取に役立つこと、④コンディション調整に役立つこと―。この4つの課題を1つも欠かすことなく試行錯誤を繰り返し、味の素ビクトリープロジェクト(VP)の栗原秀文氏らがようやく完成させたのが「エナジーギョーザ」と、「コンディショニングギョーザ」の選手強化ギョーザだった。

これらは一般的な餃子と一体何が違うのか。決定的な差は「脂質量」だった。

餃子の「脂質」を抑える4つのポイント

一般的に、餃子に使われるひき肉は脂が多く含まれる。焼く際には大量の油も使われるので、どうしても脂質が増えてしまう。そこで、次の4つのポイントを試みた。

❶皮と中身の比率を変更。皮を厚めに使い、エネルギーとなる「炭水化物」をしっかり摂る。❷肉と野菜の比率は1対1にする。❸脂質を抑えるために豚ヒレ肉などの赤身肉を使う。その際、自社製品の「お肉やわらかの素」を使ってパサつきを取り除き、おいしくやわらかくする。❹グルタミン酸が含まれるうま味調味料「味の素」や豆板醤を使って、おいしく食欲増進。

こうしてできあがったのが、炭水化物やタンパク質を効率的に摂取して試合や練習前のエネルギー補給をサポートする「エナジーギョーザ」だ。

豚肉によってビタミンB1も摂取でき、何個も食べられるように具は軽め。白飯を増やすことなくきちんと炭水化物が摂取できるようにしている。食べた個数でエネルギー摂取量が計算できるのもメリットの1つだ。

野菜たっぷりなコンディショニング餃子

ニラやキャベツたっぷりのコンディショニングギョーザ

一方で、「コンディショニングギョーザ」には具が詰まり、トレーニング後などリカバリーに役立つように工夫した。

❶コンディショニングに必要なビタミンA・C・Eが豊富なニラやキャベツなどの野菜をたっぷり使う。❷肉と野菜の比率は1対2にする。

エナジーギョーザとはここまでが違うだけで、あとの❸と❹は同じ。コンディション調整に必要なタンパク質とビタミンを手軽に摂れる上、疲れているときでも食べられるやさしい味になっている。

焼く際には油をできるだけ薄くひくこともコツの1つだが、それ以上に「ひき肉の脂が一番大きい」ので、そこまで神経質にならなくても大丈夫そうだ。

こうしてできあがった2つの「選手強化餃子ギョーザ」は、通常の餃子と比べて脂質を大幅にカットすることができた。

工夫に限りなし、楽しみながら栄養摂取

自宅で作るバドミントン奥原希望(左)とうれしそうにほおばる卓球の伊藤美誠

このギョーザを食べた選手の顔に笑みが広がったのは、言うまでもなかった。

「何個でも食べれる餃子! しっかり味がある。餃子を食べた感覚がしない。おいしい! 野菜の味を感じる。簡単でおいしくてバランスがいいから、1人暮らしの方にも向いている」(バドミントン奥原)

「(コンディショニングギョーザは)野菜がたくさんで後味も良いですね。(エナジーは)試合前にピッタリです!」(卓球伊藤美誠)

「(1度に30個の餃子を完食して)皮がもちもちしておいしいですね。さっぱりしていてヘルシーなのでどんどん食べることができます」(空手喜友名諒)

「胃もたれや消化に時間がかかる感じがせず、エネルギー補給に近い感覚でした」(陸上走り高跳び衛藤昂)

選手たちは自宅の食事に活用し、奥原にいたっては試合時にも食べているという。

自宅で餃子を作る空手の喜友名諒(左)と陸上走り高跳びの衛藤昂(味の素VP提供)

「正しい栄養が入っている」という理由だけでは食べられないのが食事。でも、自分が好きなモノだったら摂ることはできる。たとえば子供がピーマンが嫌いなら、無理やり食べさせるのではなく、同じ栄養素が入っていて食べられるモノを探してあげればいい。

もちろん、「強くなるためには必要なんだよ」というと食べられる子供も中にはいる。いろいろなアプローチがあっていい。「100点満点でなく70、80点でも、おいしく楽しく食べてもらえる工夫をすることが大切です」と、栗原氏らとともに味の素VPで栄養をサポートする管理栄養士の鈴木晴香さんは言う。

「楽しみながら栄養摂取する」という課題に挑み、実現させたアスリートのための「選手強化ギョーザ」。食事の世界には、できないことはないと思わせてくれる。【今村健人】