<ご飯を補う奥原希望の工夫/下>

ご飯をあまり食べられない、あるいは食べてくれない―。そんな悩みを持つ人は一般人に限らず、食を力の源とするトップアスリートの中にもいる。

バドミントン女子シングルスの五輪金メダル候補に挙がる奥原希望(26=太陽ホールディングス)もその1人…いや、正確にはその1人だった。裏メニューも含めて完成したオリジナル「勝ち飯」を食べ始め、彼女に変化が訪れた。

少しの工夫でエネルギー蓄積とケガ予防

オリジナル「勝ち飯」の開発に臨んだ奥原(右)(味の素VP提供)
オリジナル「勝ち飯」の開発に臨んだ奥原(右)(味の素VP提供)

奥原が大好きな豚キムチをベースに、薄いしゃぶしゃぶ餅をまぶした主菜と、ビタミンA,B,Cがたっぷり使われた汁物。ようやく完成したこの試合期のメニューだけにとどまらず、チーム奥原はこれらをベースに裏メニューとして、試合前のコンディショニングを整える「調整期」のメニュー作りにも着手した。

エネルギーを貯め込み、存分に使う試合期と違って、調整期ではケガを防ぐことも大事になる。そこで、餅を抜く代わりにニラを2倍に増やした豚キムチに変更した。奥原オリジナルACEスープでは、豚肉に替えてタンパク源の卵を加えた。

たったそれだけだった。それだけの工夫で炎症を抑えるアミノ酸も豊富になり、気づかぬうちに必要な栄養素が摂れてしまう。こうして奥原オリジナル「勝ち飯」が正式に完成した。

完成したオリジナル「勝ち飯」(味の素VP提供)
完成したオリジナル「勝ち飯」(味の素VP提供)

自称「世界一しつこい女」の粘りが復活

2019年シーズン、奥原は世界ツアーで6度も決勝に進みながら無冠に終わっていた。

だが、東京五輪・パラリンピックが延期となった昨年は、最初の国際大会となった10月のデンマーク・オープンで優勝。そして12月の全日本総合選手権では、決勝で山口茜に逆転勝ちして大会2連覇を果たした。今年3月にはバドミントン界で最も権威のある大会、全英オープンでも5年ぶり2度目の優勝を遂げている。

“エネルギー豚キムチ”によって、もともと食べていた量から換算すると約1.5倍もの白米を食べている計算になるという。

効率的なエネルギーの蓄積によって、コロナ禍で満足な練習ができない中でもスタミナ切れとは無縁だった。快進撃を支える1つに、オリジナル「勝ち飯」の存在があることは、誰の目にも明らかだった。

昨年の全日本総合選手権の際、宿泊ホテルでオリジナル「勝ち飯」を食べる奥原(味の素VP提供)
昨年の全日本総合選手権の際、宿泊ホテルでオリジナル「勝ち飯」を食べる奥原(味の素VP提供)

上野氏とともに味の素VPの「チーム奥原」の一員として栄養をサポートする管理栄養士の鈴木晴香さんはこう話す。

「『うちの子、食べないんです』という悩みは結構多いです。親からすると『せっかく作ったんだから…』となり、それが余計に重圧となって食事する楽しさを奪ってしまいます。栄養の勉強をすると知識やテクニックが積み重なっていくと思います。でも、最後に決め手となるのは食事のおいしさや楽しさです。ぜひ、一手間、一工夫するだけで気持ちが前向きに動くということ。そのためには何でも代用できるんだということをお伝えしたいです」。

正しい栄養だから食べられる、わけではないのが食事だ。おいしさや楽しさというエッセンスを加えながら、知らず知らずのうちに正しい栄養を摂れるようにする。それが腕の見せどころかもしれない。

無理のない、ちょっとした工夫で簡単に何かが変わる。奥原の姿に励まされる。【今村健人】