<アスリートにとって大切な睡眠の話・上>

アスリートのコンディショニングの1つに休養があります。トレーニングによりパフォーマンスの向上を得るためには、疲労回復を含めた適切な強度と頻度が必要です。

疲労回復には食事が重要ですが、休養・睡眠も重要な要素になります。特に睡眠不足は疲労回復を遅らせ、トレーニングの過剰負荷からオーバートレーニング症候群を引き起こす恐れがあります。日々良いコンディションを保ちたいアスリートにとって大切な睡眠のお話を2回に分けて行います。

日本人は大人も子どもも睡眠不足

「日本人の睡眠時間は世界一短い」と言われていて、子どもの睡眠時間も同じように短いという統計が出ています。睡眠時間が短い子どもは日中に眠気を感じるだけでなく、「頭がいたい」「気持ち悪い・吐き気がする」「下痢や便秘になる」などの不定愁訴を訴えることが多いようです。さらに、風邪をひきやすい、風邪が治りにくいなど免疫力が低下する傾向にあるようです。

脳の疲れは寝ないと取れない…

私たちは単に疲れたから寝るのではありません。睡眠には「起きている間に使った脳を休ませて、修復する」など様々な役割があります。

疲れた体は眠らなくても横になっているだけで一定の回復はします。一方、成人の脳は重さ約1.3kg(体重の約2%)ほどしかないのに、起きている間に膨大な量の情報を処理しているため、エネルギー消費量がからだ全体の18%にもなってしまうくらい疲れています。そんな疲れた脳は、睡眠でしか回復できないのです。

寝ている間に頭が良くなる?

脳は睡眠中に疲労回復や免疫機能の修復を行うほか、情報を整理したり、記憶を定着させたりしています。

「勉強するなら、寝る前は社会など暗記ものをやるといい」と言われるのは、寝る前に読んだり、書いたりしたものを寝ている間に記憶として意識の中に定着させているからです。実際、単語の暗記を行った後に3時間睡眠をとったグループと、とらないグループに分けてテストを行ったところ、睡眠をとったグループの方が成績が良かったという研究報告もあります。

アメリカの研究でも、学校での評価と睡眠時間が関係しており、起床時間が早く、睡眠時間が長い学生の方が、評価が高い結果が出ています。睡眠不足に陥ると記憶力が低下し、成績が下がることがわかっているのです。

寝ている間に競技力が上がる?

睡眠による情報の整理は、単語暗記のような知識記憶の定着だけでなく、パソコンのタイピングのような体を動かす技能記憶の定着も含まれており、睡眠によって運動技能も向上するそうです。キーボードを打つ正確さを競うテストでは、1時間の練習をした数時間後に行ったテストより、一晩寝て翌朝に行ったテストの方が、はるかに成績がよかったという研究報告があります。

解説

Aグループは朝10時にトレーニングをし、12時間後に再度テストをしたところ、トレーニング時とほとんど成績が変わらなかった。しかしその後、睡眠をとってもらったところ、翌朝には、睡眠前に比べて成績が飛躍的に向上していた。一方のBグループでは、夜のトレーニング後すぐに睡眠を取り、翌朝にテストをしたところ、成績が眠る前より明らかに向上していた。

また、こちらもアメリカの研究ですが、バスケットボールの大学生選手に睡眠指導を行って睡眠時間を1時間30分伸ばしたところ、短距離走のタイムやシュートの成功率が向上したという報告もあります。

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