気象庁によると、今年は例年より暑い日が多くなると予想されており、感染予防に加えて猛暑への備えが必要になります。前回のコラムでは、「身体における水の働き」「熱中症とは」「必要な水分量」「日常生活での水分補給の重要性」についてお伝えしましたが、今回はもう少し踏み込んだ実践的なお話しをしたいと思います。

順化するまで7~10日必要

「暑熱順化」という言葉をご存じでしょうか。夏前のこの時期は、急激な気温の上昇に対して、熱を体外に逃がす機能が準備できていないため、過度な体温上昇を招きやすく、熱中症を発症するケースが増えます。暑熱ストレスに対する抵抗力は、暑熱環境の屋外に身を置くことや屋外で持久性のトレーニングを繰り返すことによって徐々に高めることができます。このように、暑さに身体が適応することを「暑熱順化」といいます。

暑熱順化するには、順化トレーニングを始めてから7~10日程度必要だとされています。気温が安定しないこの時期は一度順化しても、雨で気温が低い日が続いたり、極端に涼しい環境で長時間過ごしたり、トレーニングを長時間中断したりすることで、元に戻ってしまう可能性があるので注意しましょう。

暑熱環境下で競技を行うアスリートは屋内外を問わず、本格的な夏までには暑熱順化を終えておくことが、最適なパフォーマンス発揮のために必要になります。

練習前・中・後の水分のとり方

暑熱順化をするのと同時に重要なのは「水分補給」です。いくら暑さに慣れていても、発汗量に見合った量の水分を補給しなければ、体水分が失われます。脱水が進行すると、ますます体温が上昇し、パフォーマンスの低下を引き起こします。最近の研究では、運動中の過度な深部体温の上昇によって、認知機能が低下することも指摘されています。

練習を始める前に確認して欲しいことは、身体に水分が十分あるかどうか(自分の水のタンクがいっぱいになっているか)です。水分が足りない脱水状態で練習を行えば、身体を動かして汗をかくとすぐに熱中症の症状が現れます。グラウンド整備だけで気持ちが悪くなる選手は、まさにこの状態です。

それを回避するには、まず、練習前の十分な水分補給が重要です。日常生活での水分補給をきちんと行うとともに、練習前には必ず水分補給をしましょう。時間、量の目安は、練習に入る20~40分前までに250~500mlを何回かに分けて飲みます。飲み物はお茶や水でよいと思います。

次に、練習中はなるべくこまめに水分補を行いましょう。1時間に500~1000ml(約15分おき4回程度に分けて)が目安とされています。飲み物は0.1~0.2%の塩分と3~6%の糖質を含むものが望ましく、運動量が多いほど糖質を増やし、エネルギーの補給が必要です。飲み物の温度は、あまり高いと体温を低下させる効果が弱いため、5~15℃が望ましいとされています。

練習後も十分な水分補給を行います。飲み物はお茶か水、スポーツドリンクなど身体の状態によって使い分けます。ここでも一度に多くの水分を摂るのではなく、こまめに摂ることが重要です。

どのくらい飲めばいいのかは人によって異なるので、自分の水分補給がうまくできているのかどうかを評価しながら決めていくといいと思います。

評価の指標(1)体重の減少

自分の水分補給がうまくできているのかどうか、汗などで失った水分と補給した水分のバランスが摂れているかどうかを判断する方法の1つは「体重測定」です。

練習着に着替える前に体重計に乗り、練習後、着替えてからまた体重計に乗ってみましょう。練習前後の体重を比較して減っていれば、脱水状態であることがわかります(着替える前と着替えた後に計測するのは、服の重さを一定にするため)。

例えば、練習前の体重が50.0㎏で、練習後の体重が48.7㎏だったとします(50.0-48.7=1.3㎏)。この体重減少は、水分が減ったことによるものです。つまり、「1.3㎏=1.3L」の水分が失われたということで、練習中に飲んだ水分が1.3L足りなかったということになります。この不足分を練習直後、なるべく早く補給しないと、熱中症の症状が現れてきます。

体重減少は少なければ少ないほど良いですが、多くても2%以内に抑えたいものです。先ほどの例で言うと、50.0㎏の2%は50.0×0.02=1.0㎏ですので、1.2㎏減少していれば、2%以上ということになります。

評価の指標(2)尿の色

2つ目は「尿」の色や量です。身体の中の水分が不足すると、体内での化学反応(代謝)を優先するため、汗や尿を出なくします。練習中や練習後にトイレに行かない、もしくは行く回数が減れば、脱水している可能性があります。トイレに行っても、尿の量が少ない、尿の色が濃いなどは脱水している証拠です。

脱水による尿の色の変化

日頃のトイレの回数や尿の量、色までしっかり把握しておき、その変化を見て脱水を解消することが重要です。

自分だけの水分補給法を実践

気温や湿度などの外的環境や食事、体調などの状況は日によって、人によって異なります。だからこそ、自分だけの水分補給方法を考え、実践する必要があります。

本やこのコラムに書いている水分量(○○mlなど)はあくまでも1つの目安でしかありません。コロナ禍でスクイーズボトルや共用のジャグなどを準備しなったチームもあるでしょう。だからと言って、水分補給をしないのではなく、「他の選手が飲まなくても、自分だけは用意して飲む」くらいにならないとダメなのです。

今回、紹介するのは「夏にさっぱりサラダ寿司」です。夏場にごはん(白米)が食べづらいというアスリートの声は少なくありません。「ぼそぼそして喉を通りにくい」「お弁当のにおいが気になる」など理由は様々ですが、暑い時でも食べなければ、エネルギー不足からパフォーマンス低下、不定愁訴へとつながります。

缶詰のツナ、ハム、チーズ、キュウリ、かいわれ大根、卵などをごはんに混ぜたり、トッピングしたりすることで彩りも良く、食欲が沸くことでしょう。酢を使ったお寿司はさっぱりして食べやすい上に、「食べ物を傷みにくくする働き(防腐・静菌効果)」があることは古来より知られています。また、酢に含まれる酢酸はクエン酸と同じように疲労回復の効果があると言われています。

女子アスリート/管理栄養士・佐藤郁子