勝負に執着心にデータ指導

竹内監督が築き上げた自主性をモットーとする星城バレーボール部。勝つことにこだわる余り、独りよがりな行動をすることを良しとしない。学校関係者や保護者から「応援されるチーム」にならなければならない。そんな理念に共感して進学を決めた部員は少なくない。「普段の生活をしっかりして、周りに気を配れるプレーヤーになることが大事」と沢村主将。そこへ中根コーチの加入により、さまざまな変化が生まれている。

チーム一丸で春高バレーの頂点を目指す星城
チーム一丸で春高バレーの頂点を目指す星城

練習映像を逐一録画して下校後すぐに各自の携帯で見られるようにしたり、選手起用でも積極的に下級生を起用したり。竹内監督は「彼は高校生の頃から負けず嫌いな選手でした。その情熱がチームに大きな変化を与えています」。下校中にも部員同士で競技のことを話し合う雰囲気が、新たな取り組みのおかげで高まったと感謝する。沢村主将も「勝負に対する執着心が強く、そのためにどんな技術が足りないのかデータで示してくれます」。大学やVリーグで行われている最先端の取り組みを紹介してくれるのをありがたがった。

選手を集めて気が付いたことを伝える中根聡太コーチ
選手を集めて気が付いたことを伝える中根聡太コーチ

新型コロナウイルスの感染拡大により、春には練習が約2カ月間近くできなかった。自粛期間中は、沢村主将を中心に部員に呼び掛けて週2回ほど私設体育館を利用して、練習を重ねた。学校が再開されてからも、県内独自の移動制限により夏場は試合が組めなかったこともあった。ただ、指導陣が伝える言葉の一つ一つが、自粛期間を経て一層身に染みるようになったと選手たちは振り返る。そんな中でも手にした全国の切符だった。

逆に生徒たちから学ぶことも

中根コーチには、今の3年生が愚直に頑張り続けられる世代に映る。夏場にバレー部恒例のインターバル走をしていた時、先頭に立って引っ張る最上級生の姿が印象に残った。「持久走を見れば、そのチームの様子がなんとなく分かるんですよね。しっかり追い込んでいたので、これは強くなるなと思ったんです」。

ゲーム形式の練習で自分のチームが得点を挙げて喜ぶ星城の山崎真裕(左から3人目)
ゲーム形式の練習で自分のチームが得点を挙げて喜ぶ星城の山崎真裕(左から3人目)

競技の面白さも厳しさも肌で知る新人コーチには、毎日が発見の連続だ。「教えるということ自体初めてですから、うまく伝わらず歯がゆくなることもあります。逆に生徒たちから学ばせてもらうことが多いです」。恩師として慕う竹内監督ら様々な指導者を色に例えて「自分はまだ何色になりたいのか、どんな色に染まれるのか。いろんな色の指導者を見て、自分の色を見つけようとしている段階です」と冷静に受け止めている。

学生スポーツに再び関わるやりがいついて話題を振ると、中根コーチの目がひときわ輝いた。「毎年最上級生が引退するという場面に立ち会う。先輩たちと最後の戦いに挑む華やかさと寂しさを体感できたのはVリーグにはない面白さなんです」と声を弾ませた。

練習中には選手たちだけで話し合う光景が随所に
練習中には選手たちだけで話し合う光景が随所に

春高出場権を懸けた県大会決勝の大同大学大同高戦で、今なお抱く後悔がある。中盤まで相手にリードされる厳しい展開の中、セッターに配球の指示を出した。「勝つためとはいえ、今でも反省しています。セッターは相手の意表を突くプレーができた時の快感が面白いのに、指示を出してその機会を奪ってしまった。何よりチームが大事にしている自主性を育むことになりませんから」。失敗を経験しながら次に生かす光景は、現役時代と変わらない。

そんな中根コーチの姿に、部員たちも信頼を寄せる。練習メニューの組み立てなどで毎日2人で話をするという沢村主将は「雲の上の人のような存在だったので最初来ると聞いたときは、びっくりしました。データを用いながら、感覚でやっていたことをきちんと落とし込んでくれる。バレーIQがとても高いと思いました」。エースの山崎は「練習開始からずっと見てくれるので、ピリピリした良い緊張感がある。Vリーグにいた経験をチームに注入してくれています」と振り返る。

「あの感動をもう1度」日本一へ

コロナ禍で今年は主要大会が相次いで中止となった。そんな苦境にあっても、3年生を中心にチームを引っ張ってきた。沢村主将は、部のモットーである「感謝の気持ちを忘れずに!」の思いを胸に秘め、次の世代に残す戦いぶりを見せたいとの思いが日増しに高まっている。「下級生に強いチームの姿を見せたい」と自信をのぞかせる。エースの山崎は「後輩たちには『試合中に困ったときは俺を見ろ』『俺にトスをあげれば決めるから』と言ってます」と頼もしい。

星城の体育館には6冠獲得の幕が掛けられている
星城の体育館には6冠獲得の幕が掛けられている

竹内監督は「選手たちのおかげで、これまで鳥肌が立つような瞬間に何度も立ち会わせてもらいました」。そう話した上で「今度は指導者になった中根が『日本一』を獲得する姿を側で見るのが私個人の夢になっています」とも明かした。

全国大会優勝8回の実績を誇る名門が4年ぶりに帰ってきた春高の舞台。無観客となる5日の初戦で崇徳(広島)と対戦する。3年生にとっては最初で最後の全国大会、中根コーチにとっては、指導者になって初めてのひのき舞台だ。目指すは、星城バレー部を紹介するパンフレットにある言葉。「あの感動をもう一度」だ。【平山連】

(2021年1月4日、ニッカンスポーツ・コム掲載)