セミナーなどでタンパク質を多く含む食品の話をするときは、肉や魚や大豆製品とともに「卵」を取り上げます。その際、「卵は白身と黄身、どっちの栄養が高いのか」と質問されることがあります。

かつて「タンパク質=卵白」と思われていた時がありました。まだ粉末のプロテインが身近ではなかった頃、ボディービルダーがゆで卵の白身だけを食べていた話も聞きました。卵は全卵で食べる以外に、卵白(白身)と卵黄(黄身)に分けることもできるため、今でも生卵の黄身だけを食べて白身を捨ててしまう人がいるようです。

卵黄・卵白それぞれの栄養価

卵黄(鶏卵1個分、約18g)にはタンパク質が2.5g、他にビタミンA、D、B1、B2、B12、カリウム、カルシウムなどが含まれています。卵白(鶏卵1個分、約37g)にはタンパク質3.5g、ビタミンB2、カリウムなどが含まれています(「食品の栄養とカロリー事典第3版」女子栄養大学出版部)。これを考えると、体作りのために生卵を使うのなら、卵黄と卵白を合わせて約6gのタンパク質がとれるため、全卵をとった方が良いのです。

お菓子や料理を作る際、卵白だけ使用するものがあるように、味を追求するために分けることはあります。その場合、使わなかった卵黄は他の料理に転用しましょう。栄養面の問題もありますが、それ以前に食べ物を簡単に捨ててはいけません。

にわとりは1年間に何個卵を産む?

卵は鶏が産みます。これは誰もが知っていますが、卵についてそれ以上のことをどれだけ知っていますか?

農林水産省のHP「こどもそうだん」にある「にわとりは1年間に何個(なんこ)卵(たまご)を産むか、おしえてください」などによると、1羽の鶏からは約1年間に約300個の卵がとれるそうです。鶏の平均寿命は、自然に飼育していたら5年くらいですが、だんだんと採卵数が減るので、採卵鶏の農場では約1年半で鶏を入れ替えます。

ひよこから鶏となり、安定して卵を産むようになるまでに150日かかります。また、鶏は1日1個の卵しか産めません。鶏が1日かけて作った卵を、私たちは日々いただいているわけです。

生きているものから「命」をいただく

昔、畜産科がある高校の家庭科教員から聞いた話を思い出しました。ある日の1時間目、授業のために教室へ入ると、生徒がみんなうつむいて異様な静けさだったそうです。そして泣きはらした目…。ひよこから育てた鶏を、最後は産業動物としての形に変える実習の翌日の朝の光景の話です。

かわいそうですが、食肉をつくることは、そういうことです。食用鶏と採卵鶏と差こそあれ、命あるものから生まれたという意味では、卵も鶏肉も同じです。鶏だけでなく、豚、牛といった食用の動物(産業動物)は全て生きていたもので、私たちはその恩恵を受けて生きています。

アスリートは、体作りのためにたくさん食べる必要があるからこそ、食材の命をいただいていることを折に触れて思い起こし、食べ物をより大切に扱ってほしいと思います。

今回は「アサリと大根葉の炒め煮」です。大根の葉の部分は細胞の酸化を防ぐβカロテンやビタミンEが多く、他にエネルギー代謝に関わるビタミンB1やB2を含んでいます。

また大根葉には、貧血の予防や改善にも良い鉄や葉酸も含みますし、アサリも鉄分補給にはおすすめの食材です。油を使うことで脂溶性のビタミンの吸収も上がります。

大根も生きていた食材です。光をいっぱいに浴びて作られた大根の葉もおいしく調理していただきましょう。

※参考資料
・にわとりは1年間に何個(なんこ)卵(たまご)を産むか、おしえてください。:農林水産省 (https://www.maff.go.jp/j/heya/kodomo_sodan/)

管理栄養士・月野和美砂