遠征試合に安心して臨むためには、コンディション作りが大切です。まず遠征は、日常と比べて何が違うのでしょうか。

土地勘のないところに行く場合、ネットなどで事前に調べても、ホテルでの食事や周辺の状況について細かい部分まではつかめません。移動や試合スケジュールに合わせるため、生活リズムが変わり、気候の変化、慣れない環境で普段よりも自由に行動できないなどのストレスがかかります。緊張や興奮、環境の変化で不眠になったり、下痢や便秘などの胃腸の不調を起こしやすくなったりもします。

食事も普段のように揃えにくくなるので、どうしても「必要な栄養素が不足しがち」になります。食事時間も思い通りにいかないことも多いでしょう。様々なことが重なって、どうしても「体調管理が難しくなる条件」が重なります。

それでも、選手はそれを乗り越えて実力を発揮しなくてはなりません。さまざまな事柄を事前にしっかりとチェックし、できる限りの準備をしていきましょう。

ホテルの食事環境を確認

食事は内容だけでなく、環境も確認しておきましょう。例えば、ホテルで食事を提供してもらう場合は、感染対策がされた個室やパーテーションなどがあるか、リラックスできる場所を確保できるか、試合時間に合わせて食事時間の調整に協力してもらえるかどうか、衛生管理、アレルギー対策、食材の調整などの協力が得られるかなど、細かく確認しておくと安心です。

自炊する場合は場所や調理器具も

自炊をする場合は、冷蔵庫、冷凍庫、キッチンなどの厨房設備や食品の保管スペース、炊飯器、鍋、フライパン、包丁、まな板などの調理器具や食器の種類や数、滞在場所周辺の食材の購入場所、ごみ・残飯の廃棄方法なども確認しておきましょう。

遠征が慣れてくると、1人分の簡単な調理ができるクッカーを持参し、ご飯を炊いたり、鍋などを作ったりする選手も多くいます。クッカーは、キャンプや車中泊をする人向けに作られた調理道具です。宿泊先で使える場合は、ぜひ活用してください。

海外遠征での準備、食べ慣れたお供も

特に海外遠征となると、食文化や衛生状況の違いもあって、環境を整えることがより難しくなります。私が選手の帯同をするときは、選手たちが食べ慣れた、現地では手に入りにくい食材を可能な限り持参しました。梅干し、ちりめんじゃこ、すし酢、マヨネーズやしょうゆなどの調味料、レトルトのパスタソース、海藻類やシイタケなどの乾物、「ご飯のお供」になるふりかけは選手たちの安心材料になったようです。

ナッツやドライフルーツ、賞味期限の長いパンやレトルト食品も持参しておくと安心です。お湯を注ぐだけのカップスープやみそ汁は寒い時期に重宝します。

「試合当日」の食事の準備

また、試合に向けて遠征するときは「試合当日の食事」をどう準備するかが重要です。試合当日の朝食は「糖質中心」で、「脂質の多いもの、生もの、食物繊維の多いものを避ける」ことが基本になります。ホテルで提供されるときも、そのような食べ方、選び方をすることが大切です。

具体的なメニューとして、次のようなものがあります。

和食=ご飯、サケの焼魚、卵焼き、サラダやおひたし、みそ汁
洋食=食パン、目玉焼き、ソーセージ、サラダ、スープなど

これにヨーグルトや納豆を付けたり、みそ汁を豚汁に変更しても良いでしょう。ご飯の量を調整してバランスと量を考えていきましょう。チームなど揃って外食する際は、朝早くから大人数で訪れても対応可能かを確認し、予約しておくと安心ですね。

食事量が不足する場合や補食は、コンビニなどで買い足しましょう。牛乳や乳製品、果物が不足する場合は果物や果汁100%のジュース、ヨーグルト、野菜ジュースなどを用意しておきます。

コンビニなど購入場所も複数チェック

コンビニの場所もあらかじめ、いくつか把握しておくことも大事です。大会では同じ競技をする選手が集まるので欲しい物が似ており、品切れになったり、レジで行列になって会場入りに間に合わなくなるケースも出たりするので注意しましょう。

「強い選手は、どんな環境でも自分を管理できる能力がある」と断言できます。いつでも保護者や指導者がフォローできるわけではありません。試合の舞台に立てば、1人で戦わなくてはならないのです。

保護者が心配のあまり、先回りして助言したり、準備に手を出してしまったりする光景をよく目にしますが、選手の自己管理能力をつけるためには、幼いときから「自分のことは自分でやる」習慣をつけておくことが大切です。遠征をそんな機会にして欲しいと思っています。

遠征時は、主菜と副菜の両方入った汁物を上手に使うと、栄養バランスがとりやすくなります。秋からますますおいしくなるキノコ類は、ミネラルや食物繊維が豊富で、コンディションを整えるためにもお勧めです。今回はそんな一品、「ささみくずたたきのお吸い物」を紹介します。

「くずたたき」とは、くず打ちとも言い、材料に葛粉や片栗粉をまぶすことを言います。煮立った汁に入れてゆでると表面に膜ができて素材のうま味が閉じ込められ、口当たりもなめらかになります。

鶏ささみは脂質が少なく、アスリートに人気ですが、加熱するとパサつきが気になる部位ですね。しっとりさせるために片栗粉をまぶしておくと、汁にも軽くとろみがついてのど越しもよくなります。ささみと生シイタケ、ミツバでさっぱりとした味わいで、食欲がないときにもおすすめです。

静岡スポーツ栄養研究会/管理栄養士・中野ヤスコ