睡眠時や無意識のうちに強い力で歯と歯をすりあわせる歯ぎしり。独特の音を立てながらも自覚症状がないことが多く、現時点では原因や診断が困難とされています。

歯ぎしりが習慣化すると、歯がすり減るだけでなく、顎関節症や顔面痛、頭痛・肩こりなど様々な症状が起こる可能性があります。知覚過敏や歯周病を悪化させる要因にもなり、さらには身体だけでなくメンタル面にも影響を与えるとも言われています。

現時点で完治は難しいと言われながらも、何らかの対応策があるのか、与野MFデンタルクリニックの須長敬院長が歯ぎしりについて子ども編、大人編に分けて説明してくれました。

永久歯への生え替わり時期に痛みや調整のため/子ども編

乳歯から永久歯へと生え変わりの時期は、きちんと噛み合っていない場合に、歯やあごの位置を調整しようとして無意識のうちに歯ぎしりが起こります。また歯が生えるときの痛みへの対応として歯ぎしりすることもあります。

一方、ストレスや緊張、悩みなどによっても起こります。

ほとんどの子どもは成長するにつれて、自然に歯ぎしりをやめますが、顎や歯に痛みがある場合やすり減りが激しい場合は、透明なプラスチック製のマウスピースを就寝中だけ装着する対策をとります。これによって歯のダメージを防ぐ効果があります。

ストレス解消、飲酒・喫煙が原因/大人編

大人の歯ぎしりの原因は人それぞれ違うため、しっかりと解明されてないのが現状です。現在分かっていることは、「飲酒」「喫煙」「ストレス」などが挙げられます。

特に多いのがストレスによるもので、環境の変化や日々の疲れによってストレスがたまっている場合、その解消のために歯ぎしりをしてしまうのです。そのほかに、歯並びや噛み合わせが悪い場合も、噛み合わせを調節しようとして歯ぎしりをしてしまうケースがあります。

歯ぎしりを放置しておくと、歯が異常にすり減り、歯が欠けたり割れたりします。歯が欠けることによって知覚過敏になります。歯に異常な力が加わることで歯周病へと進行しやすくなります。詰め物や被せ物が取れたり壊れたりもします。歯だけでなく全身にも影響を及ぼし、腰痛・肩こりや倦怠感・だるさも引き起こす原因になります。

歯ぎしりは原因が不明なために完全に治すことは難しいのが現状ですが、症状の軽減や歯を守る、顎を守るために次のような治療が行われます。

歯ぎしりの治療

1、マウスピース(ナイトガード)による治療

睡眠時に装着するマウスピース(ナイトガード)を作り、装着することで歯が減ったり割れたりすることや詰め物や被せ物が壊れることを防ぎます。ナイトガードには素材や硬さ、厚みの違いによって複数のタイプがあります。

ポリエチレン樹脂など柔らかい樹脂で作られたソフトタイプや、レジンと呼ばれる固い樹脂素材で作った比較的固め(ハードタイプ)があります。ソフトタイプは柔らかく違和感は少ないものの、ハードタイプより損傷しやすいデメリットがあります。ハードタイプは穴が開くなどの破損も少ないメリットがあります。

2、筋肉のマッサージ

口の周りの筋肉の緊張をほぐすことによって筋肉をリラックスさせます。

3、噛み合わせの治療

正しい噛み合わせにすることでバランスがとれて、ストレスを軽減させます。

4、ボトックス注射

緊張した筋肉にボトックス注射をすることで筋肉の動きを弱めて過緊張を取ります。

歯ぎしりをしていると感じたら、そのまま放置せず、歯科医に相談することが大事です。歯ぎしりは病気ではありませんが、心身ともに色々な不調をもたらします。何らかの対策をとって歯と口の中を守り、心と体を整えましょう。

競技で食いしばり、歯のすり減りが激しい/スポーツ選手

歯ぎしりではないものの、スポーツ選手は競技中、マウスピースをしている人が多くいます。それはどういったものなのか、須長院長が教えてくれました。

スポーツ選手は競技中に力を出力する際、瞬間的に歯を食いしばることが多くあります。そのため、歯のすり減りが他の人よりも早く進みます。最悪の場合、スポーツ中の衝撃によって、歯が折れる、抜けることもあります。歯だけではなく舌や唇、粘膜も傷つけます。

これらのことを防ぐため、スポーツ用マウスピース(マウスガード)を作って装着し、歯のすり減りを軽減し、歯が折れることを防ぎます。

マウスピース(ナイトガード)とスポーツ用マウスピース(マウスガード)は、目的が違うため、使用する素材や見た目が違います。睡眠用のマウスピースは、睡眠中の歯ぎしりなどで歯が削れたり、割れたりすることを予防する目的のため、比較的硬めです。一方、スポーツ用マウスピースはスポーツ中の激しい衝撃や歯を食いしばることに耐えられる厚さになっていて、柔らかめのものが主流です。

須長敬(すなが・たかし)与野MFデンタルクリニック院長

日本大学松戸歯学部卒業後、日本大学松戸歯学部付属病院臨床研修歯科医修了。日本大学松戸歯学部付属病院口腔インプラント科常勤医員を勤めた後、東京都、埼玉、茨城等各所歯科医院に勤務。2022年1月、与野MFデンタルクリニックを開院。日本口腔インプラント学会認定専門医、日本顎咬合学会咬み合わせ認定医。`https://www.yono-mfdental.com/`