現在日本が抱える課題の1つに「少子化」があるが、その原因について、特に親の経済的状況や学歴などがどう関係しているかの分析は十分されておらず、明確にはなっていなかった。

そこで東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻に属するピーター上田客員研究員、坂元晴香特任研究員、野村周平特任助教らの研究グループは、国立社会保障・人口問題研究所が実施する出生動向基本調査を用いてデータ分析を実施。その結果、子供を持たない人の数は男女とも過去30年の間に3倍近くに増えており、高学歴・高収入な男性ほど子供を持つ割合が多く、男性の低学歴・低収入化、雇用形態の変化が少子化の一因であることが分かった。

研究の詳細は、2022年4月27日付の科学誌「Plos One」に掲載されている。

依然として進まない少子化対策

2020年に日本で生まれた子供の数は約84万人と、1899年に統計が開始されて以来、最低の数字を記録した。これまでにも政府を中心に様々な少子化対策が取られてきたが、合計特殊出生率は1.3前後を推移しており、解決には至っていない。

これまでの研究によって、男性の収入や雇用形態が男性の未婚化につながり、結果的に少子化につながることや、過酷な労働条件では女性が産後復帰することが難しく、高学歴な女性ほど子供を諦めている可能性があることも示唆されてきたが、それらを証明する十分な研究はなされていなかった。そこで研究グループは出生動向基本調査を用いて、所得・教育・年齢を中心に、日本の子供の数がどのように変化しているのかを分析。1943-1975年生まれ(現在47-79歳)の人を対象として、40代の時点での子供の数を比較した。

男性は高学歴・高収入なほど子供を持つ

その結果、子供を持たない人の数は、男女ともに過去30年の間に3倍近く増えていたと判明(男性=14.3%→39.9%、女性=11.6%→27.6%)。男性では年代に関係なく、高学歴・高収入であるほど子供を持つ割合が多いことも分かった。子供を1人だけ持っている人の割合は増えた一方で、2人以上持っている人の割合は減少。ただし、高収入な男性は子供を3人以上持っている割合も多いという結果となった。

図1=世代別・男女別の子供を持っている割合で上が男性、下が女性(1943-1975年生まれ)。棒グラフは40代時点での子供の数に該当する割合(横軸は子供の数)、折れ線グラフは出生年代別の40代時点での合計出生率の推移を示す(東大のリリースより)
図1=世代別・男女別の子供を持っている割合で上が男性、下が女性(1943-1975年生まれ)。棒グラフは40代時点での子供の数に該当する割合(横軸は子供の数)、折れ線グラフは出生年代別の40代時点での合計出生率の推移を示す(東大のリリースより)
図2-1=収入と子供の数(男性)。棒グラフは年収別に見た40代時点での子供の数に該当する割合(横軸は子供の数)、折れ線グラフは年収別に見た出生年代別の40代時点での合計出生率の推移を示す(東大のリリースより)
図2-1=収入と子供の数(男性)。棒グラフは年収別に見た40代時点での子供の数に該当する割合(横軸は子供の数)、折れ線グラフは年収別に見た出生年代別の40代時点での合計出生率の推移を示す(東大のリリースより)
図2-2=学歴と子供の数(男性)。棒グラフは40代時点での学歴別に見た子供の数に該当する割合(横軸は子供の数)、折れ線グラフは学歴別に見た出生年代別の40代時点での合計出生率の推移を示す(東大のリリースより)
図2-2=学歴と子供の数(男性)。棒グラフは40代時点での学歴別に見た子供の数に該当する割合(横軸は子供の数)、折れ線グラフは学歴別に見た出生年代別の40代時点での合計出生率の推移を示す(東大のリリースより)

女性は正規雇用は子供を持つ割合が低い

逆に女性の場合、正規雇用の女性は、そうでない女性(非正規雇用、パートタイム)に比べて子供を持っている割合が少ないことも分かった。女性の場合は、雇用や育児の形態が大きく関係するようだ。

図3=学歴と子供の数(女性)。棒グラフは40代時点での学歴別に見た子供の数に該当する割合(横軸は子供の数)、折れ線グラフは学歴別に見た出生年代別の40代時点での合計出生率の推移を示す(東大のリリースより)
図3=学歴と子供の数(女性)。棒グラフは40代時点での学歴別に見た子供の数に該当する割合(横軸は子供の数)、折れ線グラフは学歴別に見た出生年代別の40代時点での合計出生率の推移を示す(東大のリリースより)

これらの結果から研究グループは、近年の若年層での雇用の不安定化、それに伴う低収入化が、異性との交際、婚姻、子供の有無にまで大きな影響を与えていると結論づけている。また、これまでの研究でも指摘されていたように、育児にかかる費用が、世帯年収の低い夫婦に子供を持つことを躊躇させている可能性も十分にあるようだ。

また、男女ともに人口 100万人以上の自治体に暮らす人は、人口非過密地域に暮らす人と比較して子供を持っている割合、3人以上子供がいる割合がともに少なかった。大都市の住環境等が関係している可能性も考えられるとしている。