九州大学はこのほど、妊娠中の母体の高カロリー食摂取が次世代(子ども)の肥満や生活習慣病の原因になるメカニズムを明らかにしたと発表した。九大大学院歯学研究院OBT研究センターの安河内友世准教授と福岡歯科大学口腔医学研究センターの平田雅人客員教授の研究グループによるもの。
これまで、肥満や生活習慣病といった病気の原因は、主に遺伝や出生後の環境にあると考えられてきた。今回、研究グループはマウスを用いて、その他の要因の有無、特に出生前(妊娠母体)の環境因子がそうした病気の発症と関係があるのかどうかを調べることにしたという。
通常、空腹時には肝臓のグリコーゲンが分解され、枯渇すると脂肪が分解されてエネルギー源になることが知られている。しかし、妊娠中に高カロリー食を摂取していた母親の産仔では、グリコーゲン分解が起こりにくいことが判明。脂肪が分解されにくくなり、体脂肪が蓄積され、肥満やインスリン抵抗性を呈するようになることが確認されたという。
その原因は、仔の肝臓でグリコーゲンホスホリラーゼ(Pygl)遺伝子に異常なDNAメチル化(※)が生じ、その発現を低下させることも判明。妊娠母体が経口摂取したタンパク質、オステオカルシンがPyglの発現を増強させることで、産仔の肝臓のグリコーゲン代謝や肥満の改善作用をもつことも確認した。
研究グループは、今回の研究はマウスで確認されたものであるが、人でも同様のことが起きている可能性が高いとしている。「妊娠期あるいは授乳期の栄養管理の重要性を医療関係者のみならず、多くの方に知っていただきたい」と述べている。
※DNAメチル化
DNA鎖の塩基の炭素原子にメチル基修飾が生じる化学反応で、転写制御を担うプロモーター領域がメチル化されると、その遺伝子の発現が抑制される。