新型コロナウイルスの感染拡大で長期休校が続く中、「9月入学」をめぐる動きが急加速しています。都立日比谷高校の男子生徒が春休みに「学期の始まりを9月にして僕たちの学校生活を守る話」とツイートしたのをきっかけに、文科省、全国の知事、国会、PTA、日本教育学会など百家争鳴状態。政府は6月上旬までに課題を整理し、夏休みが始まるまでに結論を出す予定です。【中嶋文明】

文科省は19日、来年から9月入学に移行する場合の2つの案を提示しました。

一気に移行する「第1案」は、14年4月2日~15年9月1日生まれの子どもたちが新1年生として入学します。普通は4月1日生まれまでですから、この学年はほかの学年より人数が約40万人も多くなって1・4倍になります。教室も先生も足りず、先生は約2万8000人不足すると専門家は試算しています。

生まれた月が最高で17カ月違いますから、遅生まれ、早生まれ以上の差が出ます。7歳5カ月の1年生が誕生してしまうのも問題で、就学年齢を早めようという動きが広がる中で、世界でも異例の高年齢1年生です。幼稚園、保育所でも問題が発生します。卒園が延びるため、その分、約26万人の待機児童が生まれ、幼稚園では同じ組だったのに、9月1日を境に小学校では学年が分かれてしまうのもかわいそうです。

一気に移行すると、来年の1年生ばかりに負担がかかり、受験、就職など将来も競争が厳しくなってしまうことから、5年かけて段階的に移行するのが「第2案」です。❶21年9月は14年4月2日~15年5月1日生まれが入学❷22年9月は15年5月2日~16年6月1日生まれが入学❸23年9月は16年6月2日~17年7月1日生まれが入学❹24年9月は17年7月2日~18年8月1日生まれが入学❺25年9月は18年8月2日~19年9月1日生まれが入学、と1カ月ずつ入学時期をずらし、26年9月に完全に移行する案です。

学年幅が13カ月になることで、児童は1カ月分増えますが、第1案よりずっと分散できます。しかし、複雑です。毎年変わるため、システムも毎年改修しなければなりません。

今の学年を来年8月まで延長し、9月入学に移行するメリット
今の学年を来年8月まで延長し、9月入学に移行するメリット

9月入学に切り替えるメリットはもちろんあります。今の学年を来年3月から8月まで延ばすことで、夏休みを短縮したり、土曜授業や7時間授業をしても足りなくなってしまった授業の時間を確保できるし、修学旅行や運動会など学校行事も行える可能性が出てきます。心配される第2波、第3波がきても、再休校などで感染のリスクを下げながら教育を続ける余裕が生まれます。欧米と足並みがそろうことで、大学を中心に留学生や研究者の相互受け入れなど国際化も促進されると期待されています。

全国知事会で吉村洋文大阪府知事は「9月入学はグローバルスタンダード。実現するならこのタイミングしかない。今年できなかったら、もうできない」と発言し、小池百合子東京都知事も「中世の時代、ペストの後に起きたのがルネサンスであり、9月入学制度の導入は社会変革をもたらす」と訴えました。安倍晋三首相は14日の会見で「有力な選択肢のひとつ。前広に検討していきたい」と話しています。

9月入学のデメリット
9月入学のデメリット

政府は6月上旬までに論点を整理し、夏までに結論を出す予定です。来年9月導入の場合、秋の臨時国会に関連法案が提出されることになります。しかし、あまりに急速な動きに、学校教育現場からは「社会全体で議論を尽くすべき事柄で、現在のような社会の混乱期に一気に導入するものではない」(日本PTA全国協議会)、「新型コロナウイルス対応下で導入されることになれば、学校は大きな混乱をきたす」(全国連合小学校長会)、「状況をさらに混乱させかねない。財政的、制度的に大きなきしみを生む」(日本教育学会)、「短期間の議論で拙速に実現することは望ましくない」(日本私立大学団体連合会)と、慎重な議論を求める声が次々と上がっています。

◆中嶋文明(なかじま・ふみあき)1981年入社。日刊スポーツになぜか「EDUCATION」(エデュケーション=教育)という紙面が毎日あったバブル全盛期の90年前後、なぜか同ページを担当。

〇…4月入学はG7(先進7カ国)では日本だけで、G20(主要20カ国)でも日本とインドの2カ国です。一方、8~9月の入学はG20で11カ国あります。入学年齢は6歳が中心ですが、インド、英国、ロシア、カナダは5歳。9月入学になると、一時的に義務教育の始まりが7歳5カ月になる児童が出てしまうことが心配されています。満7歳のインドネシア、南アフリカより遅く、早期教育の流れに逆行します。学校年度と会計年度がずれることを懸念する声もありますが、一致している国は少なく、日本とインドだけです。

G20各国の入学時期・入学年齢
G20各国の入学時期・入学年齢

(2020年5月24日、ニッカンスポーツ・コム掲載)