大根の品種、青首大根と白首大根

さて、大根おろしの辛味の違いについて紐解いてきましたが、そもそも大根にもいくつかの品種があります。代表的なものとして青首大根、白首大根があり、市場流通ベースでは青首大根が9割以上を占めています。

青首大根
 1970代以降に品種改良された現在主流の大根で、上部が緑色がかっているもの。辛みが弱く、甘みが強いのが特徴。生で大根おろしや大根サラダから煮物まで使われる。

白首大根
 従来からある大根で辛みや苦みがある。代表的な地場野菜として三浦大根や練馬大根など。肉質が緻密で煮崩れがないためおでんや、辛味を生かしてたくわん、大根漬け、刺身のつまなどに用いられる。

成長の仕方と辛味の関係

では、青首大根はどうして上部が緑がかった色なのでしょうか。ヒントは「長ネギ」にあります。そう、地上から出ている部分が緑色になるのです。光合成をするために緑色の色素(葉緑体)を獲得したのでしょうか。一方の白首大根が緑色にならない理由は、その成長の仕方にあります。

・青首大根=根の部分が地中と地上に向かって伸びるため、地上部分は太陽の光を受け、葉緑素が増えて緑色になる。
・白首大根=根の部分が地中に向かって伸びる

この成長の仕方も辛味の度合いに関係しています。大根の敵である虫や微生物は、土の中にいますよね。その敵に対抗するために、地中に深く埋まっている先端部分や土に触れる表面、皮に近い方に辛味成分があるのです。若い大根の方が成熟したものよりも辛味が多いのは、成長過程の大根を虫から守るという自然のなせるわざによるものです。

たくあんが黄色くなる理由

大根の辛味成分は、塩やぬかで漬けるたくあん作りにも役立っています。少し、難しい化学の話をします。

辛味成分イソチオシアネートの化学名「4-メチルチオ-3-ブテニルイソチオシアネート」は、とても不安定なため、水と反応して変化をします。テトラハイドロ-β-カルボリンカルボン酸(代謝中間体)となった後、2-[3-(2-チオキソピリジン-3-イリデン)メチル]-トリプトファンを形成します。この際に、大根特有の匂い成分メチルメルカプタンも放出。たくあんや干し大根、切り干し大根が少し硫黄のようなにおいがするのはこのためなのです。

たくあんが黄色い理由は、大根に含まれる成分が塩やぬか、水によって化学反応を起こすためだったのですね。同じ根菜類で白い根っこのカブは、同じように漬物にしても黄色くなりません。これが大根の特徴なのです。

しかし、辛味成分は大根の個体差のばらつきもあり、先端部と真ん中でも辛味成分の含有量が異なります。この黄色い色素が出るまでに最低1カ月はかかり、季節によっても色の出方が異なり、ムラがでます。最近は品種改良によって辛味成分が少なくなってきたことから、黄色くなりにくくなっているとも言われています。

そのため、現在市場で売られているものの中には着色料などが使われていることもあります。この成分は光によって脱色しやすいので、ス-パ-などの店頭で強い照明を浴び続けると見栄えが悪くなることもあり、ウコンやクチナシなどの天然色素を使ったり、黄色の人工着色料を使ってたくあんを黄色くおいしく見せているものもあります。

大根トリビア:たくあんの枚数の理由

ここからは大根に関する「トリビア」をお話していきましょう。

まず、おにぎりのお弁当や和定食についてくるお漬物は、二切れや三切れが多いですよね。これは諸説ありますが、験担ぎによるものが大きいと言われています。

関東では、江戸時代からの言い伝えによって、
「一切れ」=人切れ
「三切れ」=身切れ
「四切れ」=世切れ
といったことから、それ以外の「二切れ」が主流になったよう。

関西では、「三切れ」=「三方=三宝(仏、宝、僧)」が縁起が良いとされているとか。

米の研ぎ汁で下ゆでする理由

続いて、大根を煮るときに、お米のとぎ汁で下ゆでする方法をご存じでしょうか。これは米のとぎ汁に含まれるでんぷんを利用してのものです。でんぷんが大根の細胞の中に染みこむとその粘りで煮崩れしにくくなります。また、ぬかの成分が大根の灰汁やえぐみの成分を吸着して取り除いてくれる、といった効果もあります。

では、大根の下ゆでは必ず必要なのでしょうか。実はそんなことはなく、採れたての新鮮な大根は灰汁が少なく甘みがあるので、そのまま煮物や直焚きしてもおいしく食べられます。栄養価はゆでない方が逃げないので、そのときの大根に応じて下ゆでをしてみてはいかがでしょうか。

生の大根は白いのに煮ると半透明になる理由

大根は煮えてくると半透明になってきますよね。その理由は牛乳が白く見えるのと同じ原理です。大根は表面がでこぼこしており、細胞の隙間に細かい空気の粒が含まれているため、光の屈折や反射、乱反射を通じて白く見えていますが、煮ると細胞が壊れて空気が逃げ出し、水が染み出すため、光の屈折や反射が弱まって本来の半透明に見えるようになるのです。

次回(3月下旬掲載)は「切り干し大根と乾物の科学」について紐解いて行きます。