<キッチンは実験室(71):大根おろしとたくあんの科学>

キッチンの科学プロジェクト(KKP)のみせすです。冬は大根がおいしい季節、ということで2回にわたって大根にフォーカス。今回は「大根おろしやたくあんの謎」に迫ります。

・なぜ大根おろしは辛いのか
・大根の辛い部位と辛くなる理由
・なぜ青首大根は上部が緑色なのか
・たくあんが黄色くなる理由

このような疑問を一緒に解き明かしていきましょう。

大根おろしは辛いのに大根サラダは辛くない

生の大根を千切りや拍子切りにしてドレッシングとあえた大根サラダと、おろし金ですりおろした大根おろし。どちらも生の大根なのに辛味の感じ方に違いがあるのを不思議に思ったことはありませんか。

大根特有の辛味成分は「イソチオシアネート(化学名、4-メチルチオ-3-ブテニルイソチオシアネ-ト)」と言い、ワサビ、からしなどと同じ仲間の辛味成分です。大根の細胞の中にイソチオシアネートの元となる成分「グルコシノレ-ト」があり、すりおろすことで辛味を作る酵素「ミロシナーゼ」と混ざって化学反応を起こし、イソチオシアネートへと変化します。イソチオシアネートは100種類以上あるとも言われ、大根と同じアブラナ科のワサビをすりおろすと辛くなるのも同じ原理です。

おろして時間がたつと辛味がなくなる?

大根はすりおろした直後より、時間がたつと辛味が抜けます。辛味成分のイソチオシアネートは蒸発して空気中に飛んでいく揮発性の性質があります。そのため、おろしてから5分以上経つと辛味が減少するのです。15分後には半減するとも言われています。

つまり、イソチオシアネ-トは細胞が壊れた際に酵素の働きによって生成されるので、細胞が潰れて水分が出るほど辛味が強くなる傾向にあります。その特徴を生かし、どの調理器具を使うかによっても味が変わります。例えば、同じ大根を「鬼おろし」と「おろし金」でそれぞれすりおろした場合では、味が違うのです。

鬼おろしとおろし金

鬼おろしは竹製でできたおろし器。通常のおろし金よりも刃が粗くギザギザが大きいのが特徴で、鬼の歯に見えることから命名されたとか。鬼おろしを使った場合、粗くシャキシャキ、空気を含んでふわふわとした食感になるのが特徴で、細胞が壊れにくいので、辛味成分が飛びにくく辛味を楽しむことができます。

一方、おろし金を使った場合、細かく滑らかな大根おろしとなり、口当たりもまろやかになります。おろし金も素材や形状によって、出来上がりに違いが出るので、参考までに代表的なものを挙げておきます。

銅製
 鋭い刃で切れ味が抜群、組織を必要以上に削らずに済むため、辛味が少なく、きめ細かい大根おろしができる。空気と水分を含み、まろやかな口当たりで、力を入れすぎずおろせるので使いやすい。

アルミ製、プラスチック製
 比較的安価だが、素材を細かく切れないので繊維を押しつぶしてしまい、水っぽくて辛味が強くなる。

セラミック製
 切れ味が良く、ふんわりと水分多め、細かく柔らかい。汁物やみぞれ鍋に加えるのも良し。

辛い部分と辛味が少ない部位がある

大根をおろす際、「円を描くように回しながら擦ると良い」と言われます。その理由は、余計な力を入れないことで、大根の繊維を壊さず、辛味の少ない大根おろしができることと、大根の一部分だけではなく全体をおろすためです。

そんな大根おろし、大根の部位によっても味や食感に違いが生じます。辛味を作る酵素「ミロシナーゼ」は皮の近くや先端部分にあるため、辛い大根おろしが好きな場合は、皮付きのまま先端部を使い、繊維を壊すように下ろすと良いでしょう。また、若い大根の方が成熟した大きなものよりも辛味が強い傾向があります。

辛味が少なくマイルドな大根おろしが好きな場合は、先端部よりも中心部や上部を使い、皮を厚めにむいて繊維にそっておろすのが良いでしょう。その方が、みずみずしく甘さを感じられます。

加熱すると辛味が弱くなる?

それでも辛味が苦手な方は、レンジで加熱(500W、30秒ずつ様子を見ながら適時追加)すると辛みが抜けて食べやすくなりますよ。辛味成分イソチオシアネ-トは加熱には強いものの揮発しやすいため、加熱によって温度が上がると辛味成分が揮発すると考えられています。

大根おろしを使って煮る「みぞれ煮」や「みぞれ鍋」も、辛味をそれほど感じないですよね。ちなみに、みぞれ煮を作る場合、大根の先端部分を使った大根おろしを使うと、水分量が少ないので調味料が染みやすく、おいしくできます。

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