<キッチンは実験室(67):スパイスカレーの科学>

皆さん、こんにちは。キッチンの科学プロジェクト(KKP)のみせすです。前回の「スパイスの科学」でスパイスについて説明しましたが、今回は「スパイスカレー」とはどんなものなのか、その作り方を一緒に紐解いていきたいと思います。最後にはもちろん、恒例の簡単レシピもご紹介します。

地域によっていろんなカレー

まず、「カレー」と聞いて思い浮かべるものには様々なタイプがあると思います。皆さんがお好みのカレーはどのタイプですか。

インドカレー(ネパールやバングラディッシュ)
数種類のスパイス(シード、パウダー)を使い、フレッシュな香りを出しながら短時間で仕上げる(炒め料理)。素材から出る味、スパイスの香りで食べるカレー。とろみはなくさらりとしている。

タイカレー・東南アジアのカレー
生唐辛子、野菜、ニンニク、ハーブをすり潰したペーストから作られる。フレッシュで鮮烈な辛さと風味が特徴。ココナッツミルクを加えてコクを出し、肉、魚介、野菜を加えて作るさらりとしたカレー。

欧風カレー
ルウを作ってだしのスープで煮込むカレー。小麦粉を使ってとろみをつけ、香ばしさを出す煮込み料理。

ルウのカレーとスパイスカレーの違い

最近よく聞く「スパイスカレー」というのは、昔ながらのルウを使ったカレーではなく、スパイスを調合して作る新しい発想のカレーのこと。インドカレーの影響は受けつつも、日本独自の工夫やアイデアが盛り込まれているカレーの総称です。

そんなスパイスカレーは、「ルウを使ったカレーよりヘルシーだ」と聞いたことはありませんか。理由の1つめは原材料の違いです。ルウを使う欧風カレーは小麦粉、油脂が入り、ジャガイモ、ニンジンなど糖質の多い食材がベースとなっています。一方でスパイスカレーは小麦粉を使わず、油も最低限で具材もトマト、タマネギを基本に、肉魚野菜などメインを1~2種類のみ。メインの具材を豆やサバの水煮缶などヘルシーなものにすることもできます。

もう1つの理由が、使うスパイスにあります。例えば、クミンは消化促進、ターメリックは抗酸化作用、チリペッパーは脂肪燃焼、シナモンは血流増加作用といった効果があると報告されています。ただし、外食する際はお店によって油脂を多く使っているところもあるので注意が必要ですし、食べ過ぎは禁物です。

基本のスパイスはこれだ!

500種類以上あるスパイスの中で、カレーに使われるのは10種類程度。その中でもスパイスカレーの基本のスパイスは次の4つです。

(1)クミン

日本人に馴染みのあるカレーの香り。独特の強い香りと甘い風味が特徴。中世ヨーロッパでは恋人の心変わりを防ぐ神秘的な香りとして、結婚式で新郎新婦のポケットにクミンを忍ばせた、という伝説も。

シード(種)とパウダー(粉)があり、シードは調理の最初に油で炒める(テンパリング)ことでスタータースパイスとして、油に香りや薬効を移す。パウダーは炒め物や煮込み料理に使う。薬膳やアーユルヴェーダでは、消化吸収を促進し、胃の働きを助け、解毒作用として応用される。

(2)コリアンダー

パクチーの種。オレンジのような柑橘系のさわやかな甘い香りが特徴。疲料理に深みを与えて素材の味を引き出す。煮込むほどとろみが出る。肉の臭み消しとしても使われる。薬膳やアーユルヴェーダでは、消化促進、温める働きを持つ。

(3)ターメリック

ウコンの根。鮮やかな黄色なのでカレーの色付けと深みが出る。油溶性なので油に溶かし、しっかりと火を通して使う。入れすぎると泥臭く、生だと苦い。薬膳やアーユルヴェーダでは、殺菌効果、肝機能を高める効果、強壮作用が期待されている。

(4)レッドペッパー

油で炒めて辛味と香りを出したり、盛り付けてからパウダーをかけて好みの辛さに仕上げたりする。チリペッパー、カイエンペッパーも仲間だが、チリペッパーはペルー料理に使われる。薬膳やアーユルヴェーダでは、発汗作用として用いられる。

基本のスパイス4つに加え、プラスとしておすすめするのは「ガラムマサラ」です。

(5)ガラムマサラ

「ガラム(熱い)+マサラ(ブレンドスパイス)」の造語で、クミンやカルダモンなど数種類のスパイスをブレンドしたもの。完成した料理にふりかけて味と香りを補うために使う(生だと苦いターメリックは入っていない)。

甘口、辛口を調整するには

スパイスカレー4人分なら、分量はクミン、コリアンダーを大さじ1ずつ、ターメリック、レッドペッパーを小さじ1ずつで出来上がります(末尾にある「カレーの作り方」を参照)。

もし、お子様や辛いのが苦手な方がいたら、レッドペッパーの代わりにパプリカパウダーを入れてみてください。同じような味わいですが、辛さが抑えられ、味に深みがでます。確かに、唐辛子もパプリカも、ナス科トウガラシ属トウガラシで同じ仲間なので、代用が効くのかもしれません。

辛いカレーをお好みの方はチリペッパーやブラックペッパーを使うと良いでしょう。

・チリペッパー:ヒーハーする熱い辛味
・ブラックペッパー:ヒリヒリする辛味

なお、チリペッパー、カイエンペッパー、レッドペッパーはほぼ同じ粉末唐辛子です。

最初に油でスパイスを炒める理由

いまやスパイスカレーのレシピはたくさん出回っていますが、ほとんどのものが最初の工程は「多めの油を入れて、ホールスパイスやショウガ、ニンニクを炒める」となっています。この過程は「テンパリング」や「スタータースパイス」とも呼ばれます。

前回の「スパイスの科学」でもお伝えしましたが、スパイスに関わる味の風味化合物は水溶性ではなく油溶性で、精油のように油の中に閉じ込められています。ミカンの皮を爪でつまむと、液が弾けて香りが出るのと同じで、焼く、ひく、加熱するといった調理過程で外の皮が傷つくと油胞がはじけて、香りが外にでます。その香りをサラダ油やバターなどに移す工程を最初に入れることで、カレーの風味が広がり、おいしくなるのです。

次のページ「スパイスカレー」をよりおいしく作るコツと科学