<キッチンは実験室(66):スパイスの科学>

皆さん、こんにちは。キッチンの科学プロジェクト(KKP)のみせすです。最近、「スパイスカレー」が流行していますが、スパイスと聞くと辛くて汗をかいて体に良さそう…そんなイメージでしょうか。スパイスとは一体どういったものなのか、紐解いて行きましょう。

スパイスの定義とは

世界には500種類を超えるスパイスがあると言われています。その定義とは「香りや薬効がある植物の調味料」。科学用語でいうと、「風味化合物」と呼ばれる化学物質の貯蔵庫で、私たちが口にすると、気化して喉から鼻に達し、あたかも舌で味わった様な感覚を抱かせてくれるものです。

ハーブが葉なのに対し、スパイスは種子、果実、根、茎、花、樹皮などを乾燥させて使います。抗酸化作用があり、独特の香りがするのは、植物が動物を避けたり、細菌から身を守ったりするために生成したものだからで、人間が食べた際も、何らかのプラスの効果が期待されているのです。

日本にもスパイスがあった

スパイスはカレーなどのインド料理や中華料理で使うものばかりではありません。実は日本人も日常的にスパイスを使っています。

うどんや鍋料理に欠かせない「七味唐辛子」は、「山椒」「ミカンの皮(陳皮)かゆずの皮」「唐辛子」「青ノリ」「黒ゴマ」「白ゴマ」「けしの実(麻の実)」のミックススパイスで、薬味として使われるゴマやショウガ、山椒もすべてスパイスの一種です。日本料理にもスパイスは欠かせないものとなっています。

料理に使って期待できる効果

それでは、スパイスを料理に使う効果を見ていきましょう。

香りづけ
スパイスに含まれている揮発性の精油成分を料理に加えることで、食材の味を引き立てます。アップルパイにシナモン、チャイにマサラスパイスを入れるのもその効果を狙ってのこと。カレーの香りは、クミンに含まれるクミナールという成分などです。

色付け
カレー店で出される黄色いご飯はおいしそうに見せるため、ターメリックで色づけされています。赤パプリカや赤いカイエンペッパーパウダーも、料理の彩りを出すために使われます。

辛味付け
チリパウダーやブラックペッパーなどは、料理の味を引き締めるだけでなく、発汗作用によって体温の調節をしてくれます。

薬効
スパイスには体を温めたり、消化を促進したりする作用があり、中国では漢方薬や薬膳として、インドではアーユルヴェーダとして、季節や個人の体質に合わせて食事にスパイスを取り入れます。

殺菌、防腐
抗酸化作用を生かし、古くからクローブやカルダモンなどに魚や肉を漬け込んで保存効果を高めたといいます。古代エジプトではミイラの防腐剤にクローブが使われたという話もあるほどです。

精神的効用
カルダモン、シナモンなどの香りは、心を落ち着かせリラックスさせる効果があります。

スパイスを入れる順番

スパイスには、原形のままのホールスパイスと粉末状にしたパウダースパイスがあります。ホールスパイスは香りが持続しやすく、より本格的に調理する時などに使われます。パウダースパイスは手軽で使いやすいものの、香りがあまり続きません。

その特徴からスパイスを加える順番にも理由があります。ホールスパイスは油に溶かして香りを出すので最初に入れ、パウダースパイスは香りが飛びやすく、焦げやすいので最後の方に入れるのが一般的です。

また、香りを出すために、なぜ油で炒めるのかというと、スパイスに関わる風味化合物は、水溶性ではなく油溶性で、油の中に閉じ込められているのです。焼いたり挽いたり加熱したりといった調理工程で外皮に傷がつくと、油胞が弾けて香りが出るのです。

スパイスの上手な使い方

それでは、スパイスの上手な使い方を見ていきましょう。

食材にまぶす
調理前に肉、魚、野菜などにもみ込んで香りや味をつけることで、殺菌や臭み消しの効果があります。タンドリーチキンを作る際にヨーグルトとスパイスを鶏肉にもみ込むのも、この効果を期待してのことです。
よく使われるスパイス=ターメリック、レッドペッパー、ブラックペッパー、ガラムマサラ、シナモンパウダー、カルダモンパウダー

調理前の油に香りを移す
スパイスの成分は油溶性のものが多いので、調理前の油に入れて香りや薬効を抽出します。「スタータースパイス」と呼ばれるもので、主に種子(シード、ホールスパイス)が使われます。ペペロンチーノを作るときにはオリーブ油にニンニクと赤唐辛子を加熱しますし、カレーを作る際は油とクミンシードを加熱し、泡が立っていい香りがしたらOKです。
よく使われるスパイス=クミンシード、マスターシード、カシアシナモン、赤唐辛子、クローブ

調理中に入れて煮込む
パウダースパイスは香りが飛びやすいので、弱火で煮込む際に使います。カレーを作る際は、ターメリックは生だと苦く、コリアンダーは煮込むととろみがでるので、あめ色タマネギを炒めた後に加えて油となじませ、香りが飛ばない程度に弱火で煮込みます。
よく使われるスパイス=ターメリックパウダー、レッドペッパーパウダー、コリアンダーパウダー、クミンパウダー、サンバルパウダー

仕上げの前に振りかける
通常、スパイスはしっかり火を通して使いますが、ブラックペッパーやカレーの辛味スパイスなど、火を通さなくても食べられるものもあります。フレッシュな香りとともに味にパンチを与えることができます。ウナギに山椒をかけたり、目玉焼きに黒コショウをかけたりも、この効果が期待できます。
よく使われるスパイス=ガラムマサラ、レッドペッパー、ブラックペッパー、花椒

タルカ(テンパリング)
油でスパイスを炒め、熱い油ごと料理にかけるといった調理法で、生野菜のサラダにかけることもあります。フレッシュなスパイスの香りや香ばしさを楽しむことができます。
よく使われるスパイス=クミンシード、マスターシード、ヒーング、スターアニス、赤唐辛子

「辛い」は味覚ではない

さて、スパイスの味を言葉で表すと、「辛い」という人もいるかもしれません。実は「辛味」は味覚の五味には含まれません(※参考)。辛味は“辛みセンサー”によって感じるもので、痛覚刺激とも呼ばれます。“辛味センサー”は舌だけでなく、消化管などにもあると言われています。確かに、辛いものを食べるとおなかの付近がじわじわ温まり、汗がでるような経験をしたことがある方もいるかもしれません。

余談ですが、私がインドの食堂でカレーを食べたとき、あまりの辛さにおなかを下したのを覚えています。ただ、痛覚刺激はだんだんと慣れていき、数日食べ続けるとこの辛さに体が麻痺していくといった研究報告もあります。子どもの頃は甘口カレーしか食べられなかったのが、大人になったら辛口が食べられるようになるのも、辛さに慣れた結果といえます。

つくってみよう!マサラチャイ

それでは、スパイスを使って本格的な「マサラチャイ」を作ってみましょう。

マサラチャイの「マサラ」とは、「スパイスを混ぜた=ミックス」のこと。作り方のコツは、①水からスパイスを煮出すこと、②紅茶は沸騰したお湯に入れること、③紅茶を煮出してから最後に牛乳を加えることです。

チャイ用の紅茶は「CTC」という製法が取られていることが多く、黒くて丸くなっています。Crush(押しつぶす)、Tear(引き裂く)、Curl(捻って丸める)の頭文字をとり、お湯に早く濃く溶け出すため、渋みがなくチャイにぴったりです。

材料(2人前)

・紅茶(CTCアッサムなど)…10g
・シナモン…2片
・カルダモン…2個
・クローブ…2粒
・生姜スライス…2枚
・牛乳…300cc
・水…100cc

作り方

1、スパイスを鍋に入れて、中火で5分煮る
2、沸騰したら紅茶の葉をいれて2~3分煮出す
3、煮出してから牛乳を加えてふきこぼれる直前で火を止める
4、茶漉しで腰、お好みで砂糖やはちみつをいれて完成

違う名前でも同じ植物?

最後に、スパイスの豆知識をご紹介しましょう。

コリアンダーはアジアンフードで人気となったパクチーと同じ植物で、中国語では香菜とも言われています。コリアンダーは英語圏での呼ばれ方で、パクチーはタイ語から来ています。

・コリアンダー=主に香辛料として使用。種子を乾燥させてパウダー状に
・パクチー=葉を生のままそのまま野菜として食べる

パクチーは葉や茎を、サラダや生春巻きの具材として食べますが、コリアンダーはカレーのほか、ソーセージやシチューなどの肉料理での臭み消し、チャイやクッキーの甘いものにも応用されます。甘くさわやかでほんのりスパイシーな香りが特徴で、古代エジプトでは「幸福のスパイス」として使者と一緒に墓に入れる習慣もあったようです。