<キッチンは実験室(55):バナナプリンの科学>

皆さん、こんにちは。キッチンの科学プロジェクト(KKP)のみせすです。私が最近はまっているデザートを紹介します。材料は熟したバナナと牛乳だけ。これをミキサーにかけて冷蔵庫で冷やすと…なんと固まってしまうのです。卵もゼラチンも使わず、「バナナプリン」が出来上がるのです。

そんなバナナ、熟しているものと熟していないものでは味が全然違います。「熟す」とは、あの「黒い点々」とは…そんなバナナの謎を紐解いていきたいと思います。

熟すとバナナが甘くなる理由

そもそも「熟す」とはなんでしょうか。果物は生で食べることが多いもの。その生で食べた時に美味しく感じる段階を「熟した」と一般的に呼ぶそうです。

果物はある程度大きくなると成長を止めますが、柿もブドウもバナナも、最初は緑色(緑熟果)をしています。これが時間を経て「熟して」、おいしくなるのが、いわゆる熟す(追熟)という状態です。

緑色の状態から熟す間に、植物の中では次のようなことが起きています。

・果物が呼吸する
・緑色の色素(葉緑体)から色が変わる(色素体が形成)
・酸っぱい味から甘い味へ(有機酸の減少と、糖分の増加)
・いい香りがしてくる(香気成分の増加)
・果肉が柔らかくなる(色素の軟化、細胞壁の軟化)

まだ青緑色の固いバナナを食べたとき、甘さをあまり感じなかったということはありませんでしたか? 未熟なバナナにはでんぷん約20%、糖分1.5%とでんぷんが多いのです。バナナが熟すと、でんぷんを分解する酵素が働き、果糖に変化させるので、20%あったでんぷんはわずか2%まで減少し、その分増えた果糖で甘みが出てくるのです。

熟すとバナナに現れる黒い点々は

バナナは熟すと、どんどん黒い点々が現れてきて、そのうち柔らかくなりますよね。黒い点々は「シュガースポット」と呼ばれ、追熟が進み、甘味が強くなってきたサインです。バナナの皮の細胞の中にあるポリフェノールをためている袋(液胞)が破れ、ポリフェノールが酵素(ポリフェノール酸化酵素)によって酸化され、褐変物質になっているのです。

ただ、なぜ黒い点々が部分的に現れて広がっていくか、その原理ははっきり分かっていません。バナナが収穫され、運ばれる流通の過程で部分的に傷んで、そこから老化が起こる、もしくは細胞が部分的に老化するといったことが考えられています。

冷蔵庫に入れたらバナナが真っ黒に

一方、バナナを冷蔵庫で保存していたらシュガースポットのような黒い点々ではなく、皮全体が真っ黒! になったことはありませんか? 実はこれは「低温障害」と言われるものです。

バナナは熱帯性の植物なので冷たい状況に弱く、冷蔵庫の中でストレスがかかり、酵素の働きが活性化されることでポリフェノールを生成し、皮が黒く変色するというメカニズムです。この状態のバナナは、皮は黒くても甘くなく固いまま。低温のために、「シュガースポット」のような追熟の現象が起こらず、ただ真っ黒になってしまっただけなのです。

バナナを保存する適温は15℃程度。25℃以上だと傷みやすく、逆に13℃以下だと追熟されず、黒くなってしまいます。

バナナと牛乳でプリンができる訳

さて、冒頭でお話ししたように、熟したバナナ使って牛乳と混ぜ合わせると、卵もゼラチンも使わずにバナナプリンが作れます。固まる理由は、以前紹介した「ペクチンの科学」にあるように、バナナに含まれる水溶性食物繊維の一種で接着剤のような役割を持つペクチンに秘密があります(※参考コラムへ)。

一概に「ペクチン」といっても、果物の熟した状態に応じて呼び名と性質が変わってきます。バナナは、天ぷらなどの料理にも使えるような固い状態から、熟して柔らかくなり、完熟の状態では皮をむくのがやっとのほどのぶよぶよの状態まで変化します。

そんな中、いい感じに熟した状態のペクチンを牛乳と混ぜ合わせて冷やすとプリンのように固まるのです。これは牛乳の中に含まれるカルシウムの陽イオンが、バナナに含まれるペクチンの陰イオンと反応してくっつき、網目構造を形成するためです。未熟なバナナを使う際には、電子レンジ(600W2分半程度)で加熱をすると、ペクチンの分解が進むことで固まりやすくなります。

「バナナプリン」を作ってみよう

それでは、バナナと牛乳だけで固まるプリンを作ってみましょう。

<材料>
・バナナ…2本
・牛乳(成分無調整)…150cc
・レモン汁…小さじ1(変色が気にならなければ入れなくてもOK)

<作り方>
1.バナナの皮をむく。未熟なバナナの場合、電子レンジ600Wで2分半加熱する
2.バナナ、牛乳、レモン汁を入れてミキサーにかける
3. 冷蔵庫で2時間程度、冷やしかためる。固まってぷるぷるになったら完成!

ちなみに10月は食品ロス削減月間です。バナナは短期間で熟してダメになりやすいですが、熟したときこそ、このバナナプリンやバナナケーキなどに加工してみてはいかがでしょうか。

※参考コラム:
牛乳で作るぷるぷるデザート、水でも固まる謎を明かす/キッチンは実験室(28)
梅を生で食べない理由、梅酒作りになぜ氷砂糖/キッチンは実験室(39)