<キッチンは実験室(54):小麦粉の科学(下)>

皆さん、こんにちは。キッチンの科学プロジェクト(KKP)のみせすです。今回は「小麦粉の科学」の後編です。前回のコラムではグルテンの含有量によって薄力粉、中力粉、強力粉に分かれるとお伝えしましたが、今回はそのグルテンを巡って色々なパンに着目していきましょう。

米粉パンの原料は米粉だけとは限らない?!

最近では身近になった米粉や米粉パン。でも、小麦粉100%のパンがあるのに対し、米粉100%でパンを作るのは難しいのです。米粉の量が10~20%ほどのものもあります。なぜでしょうか。

パンが膨らむには「グルテン」が必要です。グルテンは、小麦粉に含まれるタンパク質と水が混ざり合うことで形成されるもので、焼くと鉄筋コンクリートのように硬くなる性質があります。発酵によって膨らんだ二酸化炭素(炭酸ガス)をグルテンの壁で閉じ込めることで、ふわっ、と空気がたくさん入ったパンができるのです。逆に言うと、パンをふわっとさせるためには、十分にこねてグルテンを作り出すことが大切です。

もちろん、小麦アレルギーの方やグルテンフリーの方向けに、小麦粉が一切含まれず、米粉だけで作られたパンもあります。その場合、グルテンの代わりに増粘剤など、発酵によって発生した空気を閉じ込める“壁”になるものが必要なのです。「米粉パンは膨らみづらい、作るのが難しい」と言われる理由の1つはグルテンがあるか、ないかなのです。

パンに塩を加える理由は?

また、パンには塩を加えていますが、その理由は分かりますか?

グルテンを形成するタンパク質の1つ、グリアジンは本来、水と混ざり合いにくく、磁石のN極とN極のように反発(専門用語では分子間での疎水性の相互作用が働く)してしまいます。しかし、塩を加えることで、塩に含まれるナトリウムイオンによる中和が起こり、水と混ざりやすくなり、まとまるのです。

パンの他に、小麦粉に塩を加えて作る料理といえば、うどん。中力粉に塩と水を加えてこねると、コシが出て弾力がでます。一方で同じ麺類であるほうとうや、小麦粉を丸めただご汁などは、塩を入れないため、ほろほろとした触感の麺になるのです。

このほか塩の効果として、殺菌効果や生地を引き締める、味を調えるといった働きがあります。私の体験談ではありますが、塩を入れ忘れたパンはびっくりするほどおいしくありません。パンに入れる塩の量は2%前後。たった数グラムでパン全体の風味が変わってしまうことにもびっくりですよね。

ライ麦パンはなぜ膨らまないのか

さて、ドイツ系のハードパンに「ライ麦パン」があります。重くてどっしりしていますよね。このライ麦パンは、その名の通り「ライ麦粉」からできています。ライ麦100%ではグルテンを形成することができず、発酵による二酸化炭素を閉じ込められないため、目の詰まったパンに仕上がります。

もう少し詳しく説明すると、グルテンは小麦粉に含まれる2つのタンパク質、粘性のある「グリアジン」とガムのような弾力のある「グルテニン」が、水の中で組み合わさることで作られます。しかし、ライ麦(ライ麦粉)には「グリアジン」を持たないため、グルテンが十分に作られないのです。(※グリアジンに似た粘性のセカリンという成分は存在するので、若干のグルテンは形成されます。そのためグルテンアレルギーの方はご注意ください)。

グルテンがないライ麦パンは重くてどっしりという特徴を生かして、ドイツや北欧などでは薄く切ってオープンサンドとして、よく食べられています。日本で市販されているライ麦パンは、ライ麦100%は珍しく、ライ麦粉が含まれているものが多いですね。ライ麦の比率が高いと重たい食感の生地で、酸味も強め。一方でライ麦の比率が低いと、比較的ふわっとした軽い食感の生地となります。

ちなみにドイツでは、ライ麦粉の比率によってライ麦パンでも名前が変わり、また比率によってスライスする厚さが5mm~18mmと目安があるそうです(ライ麦90%以上なら5mm、60%前後なら10mm前後、20%以下なら18mmほどの厚さだという)。

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