<キッチンは実験室(47):ひなあられの科学>

皆さん、こんにちは。キッチンの科学プロジェクト(KKP)のみせすです。もうすぐ桃の節句。今回は「ひなあられ」に着目し、あられやポン菓子の秘密に迫ります。

おかきが膨らむのはどうして?

あられやおかきはもち米を原料とした米菓で、小さく切って屋外などで乾燥させた米餅を火であぶったり、油で揚げたりしたお菓子です。粒が大きいのがおかき、小さいのがあられと呼ばれます。

お餅をグリルで焼くと、ぷわっと中心部が膨らみますよね。餅の内部に閉じ込められていた気体の体積が増加したことで大きく膨んだのですが、その内部は空洞になっていて、サクサク、フワフワなどの特徴ある食感を生み出しています。

この膨らみこそが、あられやおかきには重要。せんべいがうるち米を使うのに対し、もち米を使う理由は、うるち米よりももち米の方がでんぷんの成分であるアミロペクチンの量が多く、より膨らむからです。

また餅をすぐに乾燥させるのも、でんぷんのβ化を防ぐため。つきたてのお餅も時間がたつとでんぷんが老化(α化→β化=参考)してしまいますが、すぐに乾燥させるとβでんぷんにならず、αでんぷんのまま保存されるからです。これも、あられやおかきの膨らみを生む秘訣です。

東西で見た目も味も違うひなあられ

さて、「ひなあられ」と一概に言っても、地方によって見た目も違い、製法も色々です。関東と関西でも全く違います。

関西ではお餅であられを作り、しょうゆやエビ、海苔などを混ぜてしょっぱい味付けなのに対し、関東ではお米をそのままの形で膨らませ、ひし餅と同じく「桃・白・緑」の3色に色づけし、砂糖で甘く味をつけしています。関東風ひなあられは「米はぜ」「ポン菓子」とも呼ばれています。

上が関西風ひなあられ、下が関東風でポン菓子とも呼ばれる
上が関西風ひなあられ、下が関東風でポン菓子とも呼ばれる

関東風は、関西風のひなあられより軽い食感。工場で特殊な機械を使い、周りから強制的に圧力をかけて作っているのです。

「減圧による膨張」とは

その製造方法にいく前に、以前紹介した「メレンゲの科学」をおさらいしましょう。そこでは、膨らむ原理を4つ紹介しました。

(1)シフォンケーキなどの気泡が加熱による熱膨張
(2)パイ生地やシュークリームなど水蒸気になるときの水分の気化による膨張
(3)ホットケーキ作りなどに使う膨張剤による化学反応
(4)パン生地作りのイースト菌など微生物による炭酸ガス発生による膨張

実は、膨張の種類はもう1つあるのです。それは「減圧による膨張」。圧力を下げることで膨張するの? と疑問に思う方もいると思いますが、このような話は聞いたことがありませんか。

「山登りなど標高が高く、気圧が低い場所では水が100℃になる前で沸騰してしまい、米が炊けない」

気圧が高いほど沸点は高くなります。つまり、気圧が高い状態では水は液体になりますが、気圧を低くすると沸点は下がり、気体になります。圧力が高い状態で液体だったものが、圧力が急激に下がって気体になる時、体積が増えて水蒸気爆発すると考えられます。

特殊な機械を使ってポン菓子製造

これを応用したものが、関東風ひなあられ作りです。工場では、穀類膨張機と呼ばれる製造機械を使います。まず、回転式の圧力釜に白米を入れて加熱し、約10気圧まで圧力を上昇。家庭で使う圧力鍋が約2~3気圧なので高圧なことが分かるでしょう。その後、ハンマーでボン、と叩き、釜の蓋を一気に開けて圧を下げるのです(減圧)。

このときに急激に圧力が下がることで沸点も下がり、米の内部の水分が気化することで米が膨張して、ポン菓子が作られます。圧力を開放するときに「ボン」と音がすることから、「ポン菓子」と呼ばれるようになったとか。ポップコーン作りもこの原理を応用したものです。

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