<キッチンは実験室(46・下):電子レンジの科学>

電子レンジの科学の前編では、レンジの火の通り方や特性についてお伝えしました。後編ではその応用編です。

例えば、こんなことを感じたことはありませんか。電子レンジで加熱した時、紙やラップよりも、皿の中のお肉やスープが温まりやすい。これは、水より食塩水の方が熱を通しやすいので、塩分を含む肉やスープの方が発熱しやすく、温まりやすいからです。

また、塩分を含むものは表面が温まりやすい特徴もあります。カレーをレンジで温める時、中が温まりにくいのはそのため。ハムやかまぼこなどの加工食品も塩分が多いため、表面が高温になりやすくなります。

電子レンジでローストビーフができる?

肉の表面が焦げていて、中心はレアなローストビーフ。イギリスではローストビーフを電子レンジで作ることがあるそうです。本来、電子レンジは一気に中まで熱を通す特徴があるので、内部をレアに保つのは難しいはず。ここでは、水よりも塩水の方が温まりやすい原理を応用し、肉の表面に塩を多めにすり込むのがポイントです。

肉の表面に多めに塩をすり込むと、浸透圧により、表面付近から肉汁がにじみ出て、塩水で覆われたような状態になります。塩水は電波をよく吸収するので、肉の表面温度が急激に上昇。熱がここで一気に吸収されるため、内部に熱が伝わりづらくなくなります。オーブンのように、表面での高温がじんわり内部に伝わり、内部にあまり火が入っていないレアの状態を再現できるのです。

ただしデメリットが一点。レンジには「焼く」という機能がないため、表面の焼き目がつきません。焼き色をつけたい場合はフライパンで表面をあぶるなど工夫してください。塩以外でも、しょうゆやみそなど塩分の濃い調味料を肉の表面に塗った場合も同じように、中はしっとり、外はパリっと加熱することができます。

加熱するほど硬くなる!再加熱は要注意

また、パンをレンジで温めたら、最初はホカホカだったのに、冷めたらカチコチに硬くなってしまった経験はないでしょうか。この原因については、諸説あります。

でんぷんの粒が破壊されて外へ溶け出し、そのまま固まってコンクリートのように硬くなる
でんぷんと脂肪がともに存在すると、でんぷんと脂肪の複合体が作られて硬くなる
マイクロ波の照射により、糊化したでんぷんが老化しやすい

これらのことから、レンジで温め→直後はふんわり→すぐ硬くなる→再度温めるといった再加熱は要注意です。逆に、硬くなることを利用して、フランスパンでラスクを作ることはできます。

電子レンジで卵が爆発した訳は

電子レンジで加熱できないものの代表は、生卵を殻つきのまま丸ごと温めることです。殻を割って目玉焼きを作ろうとしても、爆発した経験はありませんか?

卵黄の外側は膜に包まれており(卵黄膜)、電子レンジの加熱によって中心部の卵黄から温まると、加熱温度が100度を超えた時に熱による膨張で圧力が高まります。圧力が卵黄内部から外に逃げられず、膜が破裂し、爆発を起こしてしまうというメカニズムです。殻ごと卵をチンすると爆発するのも、同じ原理です。

その場合は次の一手間を加えましょう。

少しずつ加熱しながら様子を見る(600Wで30秒ずつを2回、その後10秒)
解凍モードでじっくりと火を通す。100Wで2分半~3分程度(黄身内部の圧力上昇も穏やかになる、爆発前に熱がとおり卵黄卵白が固まる)
黄身に爪楊枝で穴を開ける(爆発しないように、圧力を脱がす穴を作っておく)*

といった工夫をすれば、失敗せずに作ることができます。

ターンテーブルがあるのはなぜ

電子レンジにはいろんな機種や型がありますが、庫内にターンテーブル(円形)が設置されているものを見たことはありませんか。電子レンジの電波はむらがあり、食品に均一に当たらないと加熱むらが生じます。そのため、食品を回転させるターンテーブルをつけたり、電波をかくはんするファンがつけられたりしています。

作ってみよう!電子レンジでローストビーフ

それでは、「水」よりも「塩水」の方がエネルギーを吸収しやすいといった電子レンジの特性を生かし、ローストビーフを作ってみましょう。

<材料>
・牛もも肉ブロック 400g
・塩 小さじ1
・コショウ 小さじ1

<作り方>
(1)牛肉は冷蔵庫から出して常温に戻しておく
(2)塩、コショウを肉の表面全体にすり込む
(3)全体にラップをして電子レンジ(600W)で上下とも約2分ずつかける
(4)そのまま常温でおいておく(余熱)
(5)冷めたのを確認して切る

※各家庭での電子レンジの機種により加熱時間には差があります。切ってみて、火の通りが悪い場合は、再度レンジ加熱するか、フライパン等で焼いて火が通っているのを確認してください。生の状態で食べて食中毒にならないよう十分注意してください。