<キッチンは実験室(40・下):野菜と浸透圧の科学>

皆さん、こんにちは。キッチンの科学プロジェクト(KKP)のみせすです。前編の「サラダを一層おいしく食べるドレッシングのかけ方」に続き、浸透圧の科学についてお話しします。

ゆでた野菜に塩をかけるのは

これまで生野菜と浸透圧の話をしてきましたが、ゆでた野菜に味がしみ込むのは、「浸透圧」によるものではありません。生野菜には細胞壁と細胞膜がありますが、加熱すると細胞膜が壊れるため、半透膜の性質を失うからです。では、加熱した野菜に調味料がしみ込む原理は何かというと、「拡散」によるものです。

浸透圧=生野菜に味がしみ込む
拡散=加熱した野菜に味がしみ込む

拡散とは、調味液を入れると段々混ざり合い、味が均一になっていくこと。この原理を使って、野菜の中に味を上手にしみ込ませるためのコツがあります。

調味料を入れる順番

まず、拡散は分子量に関係するので、分子量が大きいと拡散が遅い特徴があります。そのため、拡散しにくいもの、つまり分子量が大きい調味液から順番に入れていくと味がしみ込みやすく、料理がおいしくなるのです。

一般的に、さ(砂糖)、し(塩)、す(酢)、せ(しょう油)、そ(みそ)の順に入れるのは、砂糖の方が塩よりも分子量が大きいから。酢、しょう油、みそは長時間加熱すると、風味が失われやすいからです。和食における基本調味料の語呂合わせ「さしすせそ」は、科学的にも理にかなっているのです。

もちろん、例外もあります。肉じゃがを作る際、しょう油を先に入れますが、これはpHの関係でジャガイモの煮崩れを防ぐためです。サラダやあえ物でも、温野菜のサラダやゆでたホウレン草など、材料を加熱して使うときは水っぽくなる心配はありません。

冷めるときに味がしみる?

煮物といえば、「冷めるときに味がしみる」と聞いたことはありませんか。この言葉の意味を、少し科学を交えて説明しましょう。

煮る際に調味液が沸騰すると、煮物の水分が膨張し、材料の細胞や組織を押し広げます。その後火を止めると、調味液の体積は小さくなり、煮物の水分の体積も減り、細胞や組織に吸い込まれていくのです。この一連の現象を「冷めたときに味がしみる」と考えられています。

また、「冷めると、より塩味を感じるから」「冷めたときというのは、余熱によって時間をかけたこと」など、色々な解釈や考え方もあります。いずれにしても、加熱で野菜の表面が傷つき、浸透圧ではなく拡散によって、時間をかけて調味液が野菜の水分の中に入り込んでいくことを伝える意味となっています。

従って、「高温に比べて低温の方が、味がしみ込みやすい」ということではありません。なぜなら、加熱している時にはすでに、味はしみ込んでいるからです。

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