<キッチンは実験室(37・上):揚げ物の科学>

皆さん、こんにちは。キッチンの科学プロジェクト(KKP)のみせすです。家にいる時間が多くなっているこの時期に、料理の腕を上げている子どもたちも多いと聞きます。そんな子どもたちにとってハードルが高いのは「揚げ物」。しかし、科学の知識を加えれば簡単においしく作れます。今回は揚げ物の秘密に迫ってみましょう。

水と油の交換現象

ポテトチップスがカリッとしているのはなぜか、唐揚げがカラっと揚がっているのはどうしてか、考えたことはありますか? 揚げるとは「水と油の交換」が起こること。ポテトチップスは「脱水」が起こっています。

つまり、食べ物に含まれている水が食品表面から蒸発し、水が抜けた部分に油が入り込むという「水と油の交換現象」こそが、揚げるという調理法なのです。水が蒸発して油がしっかり入り込んだ揚げ物は表面が乾燥して、カリッ、サクッとした食感になります。

茹でるときの水が100度までしか上がらないのに対し、揚げ油は130~200度の高温になります。食品の表面から熱が伝わるため、中心温度は比較的緩やかに上昇します。天ぷらやトンカツなどの衣付きの揚げ物は、衣の中で「蒸されている」といった状況で、揚げ時間が長くなるほど水分が抜けて、油の量が多くなります。

脱水のし方は、揚げ油の温度、揚げ時間、油が新しいか古いかで変わります。天ぷらやフリッターの場合は、その衣の作り方によっても変わるのです。

低温・中温・高温に適した料理

揚げ油は、温度によって3つに分けられます。それぞれ適した料理があります。

低温(150~160℃)
春巻き、ドーナツ、フライドポテト、イモや野菜の天ぷら、鶏の唐揚げ(1度目)
→中心に火が通るまでに時間のかかるもの、でんぷんの多いもの、厚みのあるもの

中温(160~180℃)
野菜のかき揚げ、トンカツ、フライ、竜田揚げ、揚げ出し豆腐

高温(180~200℃)
カキフライ、魚介類の天ぷら、コロッケ、鶏の唐揚げ(2度目)
→火が通るのに時間のかからない食品、薄い食品

衣の付け方でも温度に違い

また、衣によっても温度の設定に違いがあります。

薄い衣=唐揚げ(鶏肉にまぶした粉)
油の熱がすぐに肉の表面に伝わる。温度が高いと中心に熱が伝わる前に表面がこげてしまう。

分厚い衣=チキンカツ(小麦粉、溶き卵、パン粉)
低温ではなかなか内部まで火が通らず、かつ高温にすると水分含有量が低いパン粉の温度がすぐに上昇して揚げ色がつきすぎてしまうため、中温で揚げる。

唐揚げを2度揚げする理由

さて、鶏の唐揚げはなぜ、2度揚げするのでしょうか。2度揚げとは低めの温度で揚げた後、一度取り出して、油の温度を上げて高温になったところに再度入れて揚げる調理法です。

高温で揚げると表面の水分がしっかり抜けて、そこに油が入り込むことでカラッと揚がります。しかし、唐揚げは粉でできた薄い衣なので、油の温度が高いと熱が中心に伝わるまでに表面が焦げてしまいます。

そのため、まずは低温で揚げて、食品の中心部まである程度、火を通します。唐揚げで言えば、鶏肉のコラーゲンの収縮を防ぐために中心温度を65℃程度までにとどめておきます。ただ、低温で揚げただけだとベチャっとしているので、カリッとさせるため、高温で2度揚げし、表面の水分をしっかり蒸発させるのです。

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