<キッチンは実験室(9・上):ミカン大福とおせち>

 みなさん、こんにちは。キッチンの科学プロジェクト(KKP)の「みせす」こと金子浩子です。師走に入り、みなさん忙しく過ごしていると思いますが、今回は年末年始に家族で楽しめる、おせちにぴったりな和菓子「ミカン大福」を作ってみましょう。前編は、ミカンの薄皮のお話です。

わずか5分の家庭実験

 早速ですが、ミカンの薄皮をきれいにとってみましょう。

<実験:材料>
・ミカン(Sサイズ)…3個
・水…200ml
・重曹(またはクエン酸)…小さじ2

 鍋に重曹と水を入れ、沸騰させたらミカンを入れて、時々軽くかきまぜながら弱火で4分煮ます。お玉で取り出して水洗いしてみましょう。すると、あれれ? 薄皮が取れてきれいになりました!

 ミカンの薄皮の成分は、主にペクチンとセルロースで、その2つは結びついています。ペクチンは食物繊維の一種で、植物の細胞をつなぎあわせる接着剤のようなもの。ジャムなどを作るときに必要です。

 しかし、これにアルカリ性の重曹を加えることで、セルロースとペクチンの結合が切れてしまい(加水分解)、薄皮がきれいにはがれるのです。同じ原理で葉脈標本も作ることができます。

 ところで、「ミカンを薄皮ごと食べると体にいい」と聞いたことがあると思いますが、その理由はペクチンです。実験で分かったように、水に溶けてなくなる水溶性の食物繊維で、含有量は実よりも多いといわれています。整腸作用があり、ビタミンPも含まれているので、毛細血管を強くする働きがあります。

缶詰はどうやってできる?

 それでは、ミカンの缶詰は工場でどのように作られているのでしょうか。

 工場では最初に、塩酸で薄皮ミカンを煮るそうです。

 え? 塩酸…? 

 そう、小学校の実験で扱った、劇物に指定されている薬品です。それに水酸化ナトリウムを入れて中和します。中和すると何と、無害な水と塩ができあがるのです【注】。

 塩酸は、実は私たちの胃で分泌される胃液の主な成分であって、同時に医薬品や農薬の合成など多岐にわたって応用されています。工場で人工的に作られるものを知ると、一瞬、怖く感じるかもしれませんが、安全が証明されているものもあります。

 ミカンをそのまま食べるか、缶詰ミカンを食べるかは、私たち一人一人の価値観や判断に委ねられています。缶詰加工のおかげで日持ちしたり、旬以外でも食べられたり、薄皮の食感を気にせず、すぐ料理やデザートに応用できたりと、メリットも多々あります。家庭内でも食のリスクコミュニケーションを取りながら、何を選ぶのか、食べるのかを決めていくことが大切です。

【注】日本缶詰びん詰レトルト食品協会のウェブサイトは塩酸での皮むきについて、薄い塩酸と薄い水酸化ナトリウムの中で、それぞれ20~40分間入れた後、水洗いをして薄皮をむいています。これらの酸・アルカリは食品衛生法において添加物に指定されている純度の高いもので、水洗いすることで、ミカンには残りません、としている。

金子浩子

子ども向け食育ボランティア団体「キッチンの科学プロジェクト(KKP)」代表・講師
東京薬科大生命科学部卒/群馬大学大学院修士(保健学)。中・高校教諭一種免許状(理科)取得
国際薬膳師・国際薬膳調理師・中医薬膳師。キッズキッチン協会公認インストラクター。エコ・クッキングナビゲーター