<キッチンは実験室(6・下):ゆでる温度で硬さが変わる?>

 第6回・上では、ニンジンはゆでる温度で硬さが変わること、ニンジンに含まれるペクチンメチルエステラーゼという酵素が、そのカギを握っていることなどをお伝えしました。

 実はこの酵素は、酸性、アルカリ性のpHとも関係があります。酸性のときはイオン化して不安定な状態になるので、60~70℃のときと同じように、カルシウムと結合して硬くなります。サツマイモのレモン煮が煮崩れしにくいのは、酸性のレモンのおかげです。一方、五目大豆のように、マグネシウムイオンなどミネラル(アルカリ性)を含む大豆と一緒に煮ると、ニンジンは比較的軟らかくなると知られています。

用途に合わせて温度を調整

 たかがニンジンのゆで、されどニンジンのゆで。離乳食など、食材を潰したいときは強火で蓋をしてグツグツゆでる。歯ごたえを残したいときは弱火でゆっくり煮る。用途に合わせて温度を調整するといいですね。

 歯ごたえ、舌触り、のど越しといった「食感」は五感の1つです。食べ物を口の中に入れたときの口腔内の触覚や圧覚で感じる物理的性質を専門用語で「テクスチャー」と言いますが、これは食べ物のおいしさを左右する大切な要素でもあります。硬さ、粘り、弾力性、舌触り、滑らかさ、口どけ、飲み込みやすさなどが、私たちの感じる「おいしさ」に影響しています(おいしさの科学は奥が深いので、この辺で…)。

 ニンジン嫌いのお子さんもよく聞きますが、時には硬めにゆでて、よくかんで味わってみませんか? かむことで顎が発達し、満腹感も出やすくなるといわれています。秋から冬にかけてニンジンは旬を迎えます。家庭で実験しながら、おいしく食べてみてくださいね。

金子浩子

子ども向け食育ボランティア団体「キッチンの科学プロジェクト(KKP)」代表・講師 東京薬科大生命科学部卒/群馬大学大学院修士(保健学)。中・高校教諭一種免許状(理科)取得 国際薬膳師・国際薬膳調理師・中医薬膳師。キッズキッチン協会公認インストラクター。エコ・クッキングナビゲーター