「娘の将来の身体が壊れてしまう…」。新体操選手の長女のケガから「食」を考えるようになった嶋野麻美さん(大阪府摂津市)のレポート第2回。現状を調べていきながら、1つの考え方にたどりつきました。
========

 皆さんは「新体操」と聞いてどのようなイメージを持ちますか?

 よく言われるのは、やっぱり「リボンをクルクルと回す南ちゃん(笑)」「細くて小さくてかわいらしい」「体操と新体操ってどう違うの?」「食べてなさそう」「バナナとヨーグルトが主食」といったものです。

 最近では、新体操日本代表がオリンピックで注目されたこともあり、メディアの露出も増えましたが、新体操の試合や演技を実際に観たという人は少ないのではないでしょうか。

リオデジャネイロ五輪新体操団体決勝でフープ・クラブの演技を行う日本代表
リオデジャネイロ五輪新体操団体決勝でフープ・クラブの演技を行う日本代表

 新体操の演技時間は、個人演技1分15秒~1分30秒、団体演技2分15秒~2分30秒。13メートル×13メートル四方のフロアマット上で音楽に合わせ、手具を巧みに操作しながら演技をします。高い柔軟性はもちろん、ジャンプ、ステップなどスピード感や力強さ、繊細な表現力といったさまざまな要素が必要で、演技の美しさを引き出すために、引き締まったプロポーションであることは絶対条件です。フィギュアスケートの選手にも共通するところが多いと思います。

高い柔軟性としなやかな筋力

 新体操の選手は、通常の関節可動域をはるかに超えるポジションで演技をします。180度以上の開脚や後頭部がお尻につくほどの後屈などが代表的ですが、そのような柔軟性を保つためには、そのポジションから元の位置に引き戻すための筋力も相当必要になります。

 柔軟動作に追いつくだけの強くてしなやかな筋力がなければ、娘の腰椎分離症のような大きなケガにもつながりますし、その他の故障を引き起こす恐れもあります。日々のトレーニングはもちろんですが、体力、筋力、精神力などのジュニア期の練習を支える「毎日の食事」はとても大切です。

 しかしながら、「やせなさい」と体重が落ちるまで必要以上に走り込みをさせる、食べるものは野菜だけに制限するといった指導が、いまだにあるということも耳にしました。

 私が調べた中では「新体操選手は少ない食事でも動ける」というコラムや、「月経が止まっている方が試合へのコンディションを整えやすいと指導されてきた」という書き込みがあったくらいです。成長や栄養といった観点がなく、とても悲しくなりました。

 日本代表の選手は、ナショナルトレーニングセンターの食事指導を受け、海外の選手よりもしっかり食べ、考え方も変わってきているようですが、競技の世界全体に、まだ浸透していないのが現実のようです。

和食中心のご飯とみそ汁で健康に

 ジュニア期に適切に食事をし、十分な栄養を摂らなくては、骨粗しょう症、貧血、低体温症、摂食障害など、娘の将来の身体が壊れてしまう。その強い思いと、学生時代に私自身がスポーツ医学を専攻していたこともあって、スポーツ生理学や栄養学の教科書などで勉強し直し、いろいろな団体のスポーツ栄養学などのセミナーに参加しました。

栄養フルコース型の食生活を取り入れていたころの常備菜。常に10品ほどを作りローテーションしていたが、負担も大きかった
栄養フルコース型の食生活を取り入れていたころの常備菜。常に10品ほどを作りローテーションしていたが、負担も大きかった

 毎日の食事を充実させよう、栄養満点の食事を作ろうと最初は意気込みましたが、やはり3人の子育てや、仕事をしながら品数を多く、バランス良い食事を作るには時間的にも経済的にもかなりの負担を感じました。

 簡単に、でもしっかりとした栄養を摂りながら、プロポーションを維持できるような食事はないだろうか?

上は、小食の時と改善後のお弁当箱の大きさ比較。左下は食トレ以前の弁当でご飯は70gほど。右下は食アススタイルのバランス弁当。ご飯の量は茶碗2杯強の350g
上は、小食の時と改善後のお弁当箱の大きさ比較。左下は食トレ以前の弁当でご飯は70gほど。右下は食アススタイルのバランス弁当。ご飯の量は茶碗2杯強の350g

 その中で出会ったのが一般社団法人食アスリート協会の「食アススタイル」6:4の栄養バランスでした。食を「栄養」といった観点だけで見るのではなく、食べることをトレーニングにしよう! といったもので、キーワードは「食べることに対する意識」「食べ物を受け止める身体の機能」。この2つを高めることで、健康で強い心と身体の土台を作るといった方法です。

 食事内容は、和食中心のご飯とみそ汁。お米をしっかりと食べるというスタイルで、実践しやすく、今までの負担は何だったのだろうという感覚でした。しっかり食べることで、娘の表情も身体もみるみる健康に変わっていきました。

現在の食事は、雑穀米ごはんと具だくさん味噌汁が中心
現在の食事は、雑穀米ごはんと具だくさん味噌汁が中心

 娘の所属する新体操クラブでは代表やコーチが、選手たちのスキルアップはもちろん、ケガの予防、将来の身体づくりのためにと、この考え方を積極的に導入してくれ、今では選手クラスの全員が「食アススタイルの食トレーニング」を始めています。次回は、この「食アススタイル」6:4の栄養バランスを紹介します。

嶋野麻美(大阪府摂津市)

食アスリートJr.インストラクター、健康食育Jr.マスター、キッズコーディネーションインストラクター。

大体大健康科学コースでスポーツ医学について学び、中・高等学校1種免許(保健体育)。茨木新体操クラブにて指導補助、食事指導を行っている。

中学2年の長女、小学校2年の次女は新体操、小学校4年の長男はサッカーに奮闘中。