Q3、歯科矯正をするなら何歳から始めるといいのか

歯科矯正をやるべき時期は一概に言えませんが、顎の成長が終わる成人前(一般的に男児で18歳前後、女児で15歳前後)よりも、子どもの頃から始めた方がよいと言われます。小児矯正を行う場合、成長期に顎骨の形や大きさを整える1期治療と、永久歯が生え揃ってから歯を移動させて歯並びや噛み合わせを整える2期治療に大別されます。

1期治療で顎骨の形や大きさを整える

1期治療は歯並びを改善する治療というより、顎のバランスを整える土台作りが中心です。乳歯が生え揃う3歳頃から始められますが、通常は永久歯が生え始める6歳頃から生え揃う12歳頃までに行います。

まだその時期は骨も柔軟なため、簡単で負担・不快感の少ない装置で骨格の適切な成長にアプローチでき、成長を利用して骨の形成に働きかけます。合わせて指しゃぶりや舌を出す癖など、顎の発育に悪影響を与える習慣も正しながら健やかな成長を促します。

取り外し式の床矯正装置をつけている子ども
取り外し式の床矯正装置をつけている子ども

顎の骨格の矯正がメインなので、取り外し式の床矯正装置やマウスピースの使用が中心です。子どもの成長に合わせて装置を調整・交換しながら顎の成長を導きます。ただ、床矯正は歯科医師の指示通りに装着時間や使い方を守らないと効果が出ないばかりか、装置のフィット感の悪化や痛みにつながります。装置の作り直しや治療期間の延長で結果的に治療費がかさむ場合もあります。 

2期治療で歯並びや噛み合わせを改善

次に、2期治療の目的は大人の歯科矯正と同じく、歯並びを整えて噛み合わせを改善することです。子どもの場合、永久歯が生え揃い、顎の成長が完了した時期以降に開始します。永久歯が生え揃うのは第二大臼歯が萌出する頃、つまり小学校高学年から中学生で、2期治療はそれ以降に始めるのが一般的です。

治療法は成人矯正治療と同じく、マルチブラケット矯正が中心です。歯に1本ずつブラケットという留め具を付け、そこに通したワイヤーの力で歯を動かして矯正します。大人の矯正と同様、銀色の金属製ワイヤーを使う場合や目立ちにくいホワイトワイヤー、歯の裏側に装置を装着する裏側矯正などもあります。取り外し式のマウスピース矯正もありますが、大きな歯の移動には限界があります。

マルチブラケット矯正をつけている子ども
マルチブラケット矯正をつけている子ども

ここで注意したいのは、2期治療では永久歯が揃い、顎の成長もある程度進んでいるため骨格の改善が難しいということです。時には抜歯で歯を移動させるスペースを作ったり、「受け口」とも呼ばれる反対咬合では外科矯正で顎骨を切断する手術が必要になります。

また、歯のサイズや生える位置が原因で歯並びが乱れる「叢生(乱ぐい歯)」では1期に床装置で顎のアーチを広げて歯が並ぶスペースを作ったり、2期治療の抜歯やディスキングでスペースを確保したりしますが、骨格の問題がなければあえて1期治療はせず、タイミングを見て2期治療から開始する場合もあります。年齢とともに顎骨が大きくなれば、自然と不具合が解消されることがあるからです。

Q4、歯科矯正の期間や金額どれくらいかかるのか

「歯科矯正は高い」「治療費が高額だから、なかなか決心がつかない」という言葉を、私も臨床現場で子どもの保護者からよく耳にしてきました。第一の原因は歯科矯正治療の大半が公的医療保険の対象外のため自費診療(自由診療)となることです。自費診療では、治療費の全額を患者の自己負担で医療機関に支払いします。

自費診療のため高額、納得してから治療を

歯科矯正は基本的に「病気を治す治療」ではなく、見た目を治す、整えるといった審美治療と考えられることから保険適用外。そのため治療内容や費用、保証、これらの提示方法などは医療機関によって異なります。

矯正歯科で行う治療は歯並びや噛み合わせの問題の程度により実に多彩ですが、期間は1年~5年以上、費用は少なくとも10万円から、全顎的な治療になれば100万~200万円に及ぶことも少なくありません。

治療の流れとして①初診・カウンセリング②検査・資料採取・診断・治療計画作成③矯正治療の後、最後に保定といって、歯の後戻りを防止するためにリテーナーという保定装置を一般的に最低1~2年装着します。数カ月単位、もしくは1年に1度、歯科医院で経過観察を行います。

各段階で、各歯科医院によって異なる治療費がかかるため、事前に詳細を確認しましょう。高額になりがちな自費診療だからこそ、トラブルを防ぐために費用面の話も十分に聞いて同意してから治療を受けましょう。

検査で見つかった虫歯などは矯正治療の妨げになることがあるので事前に、もしくは矯正治療と並行して治療をします。虫歯治療や乳歯の生え換わりに関係する抜歯は公的医療保険の適用ですが、矯正治療で歯並びのスペースを確保する「便宜抜歯」は自費診療です。また、全顎にわたる治療のほかに、一部の歯だけ動かすMTMとも呼ばれる部分矯正もあり、費用も安く抑えることができる場合があるので、歯科医院で相談してみましょう。

歯科矯正は子どもの成長に合わせた適切なタイミングが重要です。そのタイミングを逃さないためにも、少しでも子どもの歯並びや噛み合わせが気になったら自己判断で放置したりせず、まずは速やかに矯正歯科を受診するようにして下さい。

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