夏休みは歯の治療をする絶好のチャンスです。普段、部活動や習い事、塾通いなどで、歯科治療の時間をなかなか作れない学生は、この長期休みに虫歯を治し、噛み合わせについて考えてみてはいかがでしょうか。最近では、スポーツの競技力にも噛み合わせや歯並びが影響するとも言われています。噛む力が競技力に関係するとはどういったことなのか、大阪・堺平成病院歯科科長の島谷浩幸氏が解説します。

Q1、健康な歯と成長にはどんな関係があるのか

歯の形にはそれぞれ役割があります。食べ物を前歯で咬み切り、しっかり咀嚼(そしゃく)して奥歯ですり潰すために、健康的な歯は不可欠です。

食べ物の入り口の口にある歯が、虫歯で欠けていたり、痛みがあったり、ぐらつきがあったりすると、しっかり咀嚼できないまま短時間で飲み込まざるを得ません。そうなると、ひどい場合は消化不良を引き起こし、便秘や下痢といったお通じにも悪影響を及ぼします。せっかく摂り入れた食材の栄養素が十分に吸収されないまま排泄されてしまうことになります。

よく噛む子どもと学習・スポーツ意欲

子どもと噛む力についての研究報告を2つ挙げましょう。

2011年にJA中央会が全国の小学1、2年生1000人を対象に実施したインターネット調査では、下の図のように朝ご飯をよく噛んで食べる子どもほど学習意欲が高い傾向(高水準)があるという結果を示しました。同調査ではさらに朝ご飯をよく噛んで食べる子どもほどスポーツ意欲も高く、よく噛む子どもほど勉強時の集中時間が長い傾向にあるとも報告しています。

子どもの朝ご飯時の咀嚼実態とスポーツ意欲のグラフの図。よく噛んで食べる子の方が学習意欲が高水準を示している
子どもの朝ご飯時の咀嚼実態とスポーツ意欲のグラフの図。よく噛んで食べる子の方が学習意欲が高水準を示している

また同年、小学6年生171人に食事のアンケートを実施し、「噛む力」と「運動能力」を測定したという別の研究では、食べることへの関心が高く野菜を多く食べる子どもは「噛む力」が強く、「運動能力」も高いと報告しています。

虫歯になり、特に前歯が欠けて正常な形でない場合、発声に影響が出て、滑舌の悪さから人との会話に支障が出ることもあります。学校や社会において、スムーズなコミュニケーションをとるためにも健康な歯は大切です。このように、健康な歯でしっかり噛むことは栄養摂取の身体的な面だけでなく、集中力や意欲を高めるような精神的な面、さらに社会的な側面を成長させる上でとても重要です。

Q2、スポーツと歯の関係、競技力アップに影響?

健康的でバランスのとれた噛み合わせによって、私たちは姿勢を安定させることができます。重量挙げのように一瞬で強い力を発揮する場合、グッと奥歯を噛みしめることが必要です。しかし、歯や噛み合わせが悪い場合は力を十分に発揮できず、正しい姿勢も維持できません。

近年は「スポーツ歯学」という新しい分野が注目されています。これは1990年にFDI(国際歯科連盟)によりスポーツに関する新しい歯科医学分野として提唱されたもので、運動能力の維持・向上やスポーツによる外傷予防などの普及・啓蒙などを担っています。2000年には日本スポーツ歯科医学会が発足し、最新の研究成果や情報を発信。2011年に施行された「スポーツ基本法」では、医学や生理学、心理学、力学等のスポーツに関する諸科学の研究領域の1つとして歯学も挙げられています。

プロやオリンピック選手と歯の関係

現在、日本のオリンピック代表選手に対するメディカルチェックは歯科、内科、整形外科の3科が義務付けられています。歯科検診が始まったのは1988年のソウルオリンピックからで、虫歯や歯ぐきの腫れ・痛みなどで競技やトレーニング中に意識が集中できないことを防ぐだけでなく、噛み合わせのチェックも大きな役割です。

上の図は2022年、現役でプロを目指す全国の10代、20代のアスリート143人を対象に実施した歯科矯正に関するアンケートの結果です。3分の2にあたる73.1%(103人)が歯科矯正を経験(矯正中を含む)し、「矯正を行った理由は?」という質問では、35%が「パフォーマンス向上のため」、23.3%が「監督、チームメイトから勧められたため」と半数以上が競技に関わる理由を挙げ、「見た目を改善するため」と答えた人は4.9%にとどまりました。

また歯科矯正経験者に対し、「競技パフォーマンスに噛み合わせが影響すると感じますか?」と質問したところ、現在矯正中のアスリートは76.3%、過去歯科矯正を行ったアスリートの90.8%がパフォーマンスへの影響を実感していると回答しました。もはや競技力向上のために噛み合わせを整えるのは、アスリートにおいて当たり前、常識なのです。

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