高温多湿の季節は、食事の衛生にもより配慮が必要です。お弁当作りも神経を尖らせる日々が続きますね。

家庭での食事原因は2割以上

食中毒は、その原因となる細菌やウイルスが食べ物に付着し、体内へ侵入することによって発生します。 家庭の食事が原因となった食中毒の件数は、届け出のあるものだけで約2割もあります。軽度な下痢や嘔吐(おうと)では届け出をしないケースもあるため、実際にはもっと多いと言われています。

細菌による食中毒は梅雨や夏場に

細菌が原因となる食中毒は夏場(6月~8月)に多く発生しています。その原因となる細菌の代表的なものは、腸管出血性大腸菌(O157、O111など)やカンピロバクター、サルモネラ属菌などです。食中毒を引き起こす細菌の多くは、室温(約20℃)で活発に増殖し始め、人間や動物の体温ぐらいの温度で増殖のスピードが最も速くなります。細菌の多くは湿気を好むため、気温が高くなり始め、湿度も高くなる梅雨時には、細菌による食中毒が増えます。

一方、低温や乾燥した環境で長く生存するウイルスが原因となる食中毒は、冬場(11月~3月)に多く発生しています。食中毒の原因となる代表的なウイルス、ノロウイルスは調理者から食品を介して感染する場合が多く、ほかに二枚貝に潜んでいることもあります。ノロウイルスによる食中毒は大規模化することが多く、年間の食中毒患者数の5割以上を占めています。

今一度、「3原則」を確認しよう

食中毒を防ぐ3原則は、原因となる細菌を食べ物に「つけない」、食べ物に付着した細菌を「増やさない」、食べ物や調理器具に付着した細菌を「やっつける」
食中毒を防ぐ3原則は、原因となる細菌を食べ物に「つけない」、食べ物に付着した細菌を「増やさない」、食べ物や調理器具に付着した細菌を「やっつける」

ここでは、夏場に多い細菌による食中毒を防ぐための対策をまとめていきます。細菌による食中毒を防ぐ3原則は、食べ物に原因となる細菌を「つけない」、食べ物に付着した細菌を「増やさない」、食べ物や調理器具に付着した細菌を「やっつける」です。すでにこれらを意識して実践している方もいると思いますが、今一度確認していきましょう。

つけない

手洗い

「つけない」ための第一歩は、手をよく洗うこと。手には様々な雑菌が付着しており、水で洗うだけでは取り除けません。食中毒の原因菌を食べ物に移さないよう、手洗いは正しく行いましょう。

調理前だけでなく、調理中も手を頻繁に洗うことが大切
調理前だけでなく、調理中も手を頻繁に洗うことが大切

調理前だけでなく、調理中も手を頻繁に洗うことが大切です。例えば、生の肉などには細菌がついていることが多く、それらを触った手で、そのまま食べるようなサラダの野菜などに触れてしまうのは危険です。調理の途中でトイレに行ったり、鼻をかんだりした後もしっかり手を洗いましょう。

おにぎりを握る時はラップなどを使い、直接食材を触らないようにしましょう。サンドイッチやハンバーグなどを作るときは、使い捨て手袋を使用するといった配慮をすることで直接食材を触らず、衛生的な状態を保てます。

ハンバーグを作るときは使い捨て手袋を使用し、直接食材を触らないように
ハンバーグを作るときは使い捨て手袋を使用し、直接食材を触らないように

食品をよく洗う

野菜など洗える食材は、使う前に流水でしっかり洗いましょう。食中毒菌は食材の表面につくので、野菜を洗うコツは「皮をむいてから流水で洗うこと」「切る前に洗うこと」です。

野菜の皮をむいた後に洗う理由は、まな板の衛生も保たれることから(ただし食材や調理によって、切ってから水にさらすものもあるので臨機応変に対応)。切る前に洗う理由は、水に溶けやすいビタミン類の流出を避けるためです。

購入した食品のパッケージは、食器用洗剤を薄めたものや消毒用アルコールで拭いてから保管することで、保管場所に細菌やウイルスをつけないことにつながります。

包丁やまな板を分ける

包丁やまな板は「肉用、魚用、野菜用」「加熱・非加熱」で分けて使用し、生の肉や魚を切ったまな板や包丁で、そのまま野菜などを切ることがないようにしましょう。食材別にする理由は、食材の育った環境によって付着している菌の種類が異なり対処方法も違うため、混ざらないようにして確実に殺菌、除菌をするためです。

まな板を2枚以上用意できない場合は、100円ショップなどでも販売されている「まな板シート」を使うのがおすすめ。普段のまな板は野菜用、肉魚を切る時にはまな板の上に「まな板シート」を敷くとよいでしょう。1つのまな板で切りたいときは、野菜を切った後に肉、魚を切るようにします。

まな板、包丁のほか、調理中の菜箸、トングなども生の肉をつかむものと焼けた肉をつかむものは別のものにするなど、使い分けましょう。

調理器具は洗って消毒

調理器具は使った後、すぐに洗剤でよく洗うことが大切です。その後、60℃以上の熱湯を数秒かけたり、漂白剤で消毒したりして、カビが生えないようによく乾かします。

まな板などの調理器具は洗った後、煮沸や漂白剤での消毒を定期的にするように
まな板などの調理器具は洗った後、煮沸や漂白剤での消毒を定期的にするように

「抗菌加工」されたまな板もありますが、過信は禁物。取り扱いは普通のまな板と同じようにしましょう。ヒノキは抗菌力が強いと言われていますが、刃が当たって傷がつくと、菌の温床になるので洗浄と消毒は必要です。ただし、変色や黒ずみの原因になるので漂白剤は使用できませんし、木製のまな板の天日干しは「そり」の原因になりますので、風通しのよい日陰で乾燥させましょう。

増やさない

食中毒菌を増やさないポイントは、温度と時間を管理することです。多くの細菌は高温多湿で増殖します。上記にも述べましたが、室温(約20℃)で活発に増殖し始め、人間や動物の体温ぐらいの温度(35℃前後)で増殖のピークになるので常温保存は避けましょう。

温度の管理

「増やさない」ためには、作ったものは小分けにしてなるべく早く冷まし、冷蔵や冷凍保存するのがベストです。冷蔵庫内の温度は一般的には3~6℃の設定ですが、細菌はこの温度で増殖が止まるわけではなく、増えるスピードが遅くなるだけです。冷蔵庫保存の作り置きは、早めに使い切りましょう。

冷蔵庫で食品を保管する際も、他の食品に付いた細菌が付着しないよう密封容器に入れたり、ラップをかけたりすることが大事です。

時間の管理

調理してから食べるまでにどれくらい時間が空いているかを確認しましょう。常温で保管する場合、食中毒菌の1つ、サルモネラ菌は4時間で10倍に増加します。料理は作ってすぐに食べることが基本ですが、どうしても調理後時間がたってしまう場合は冷蔵で保管し、温度管理と合わせて衛生管理を行いましょう。

やっつける

中心温度が75℃で1分間以上

調理で加熱する際は「食材の中心温度が75℃で1分間以上」が基本です。ほとんどの細菌やウイルスは、これで死滅します。

どれくらい加熱すればいいのか分からない、目視で確認できない時は、中心部温度計で測ってみるといいでしょう。そのとき、針がきちんと食材の中心にあたるように測定することが肝心。食材の上から刺すと、食材の底に当たってしまい、正確に測ることができません。横から刺して測定してください。

厚みのある肉やハンバーグなどの中心部に刺して測れる温度計
厚みのある肉やハンバーグなどの中心部に刺して測れる温度計

ステーキやハンバーグなど、厚みのある食材をフライパンで焼くとき、中まで火が通っているか不安な場合は調理後、電子レンジで食材の中心まで加熱することをおすすめします。この時期は、中心温度が生に近い焼き方(ミディアムレア)ではなく、中心までしっかり火の通った焼き方(ウェルダン)で焼いてください。外食する際も焼き加減に注意しましょう。

調理時はもちろん再加熱する時、温め直す時も「中心温度が75℃で1分間以上」を意識してください。

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