新型コロナウイルス感染拡大の影響で中断していた今季リーグ戦を先月末に再開させた米プロバスケットボール(NBA)は、レギュラーシーズン全日程を消化し、17日からポストシーズンに突入している。会場は、フロリダ州オーランドにあるウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート内の「バブル」と呼ばれる隔離地域。選手やチームスタッフは、全日程が終了するまで、そこに滞在することが義務付けられている。

バブル入り直後は粗末な食事

バブル入りした選手たちは、PCR検査で2度の陰性が確認されるまで48時間の完全隔離生活を余儀なくされたが、そこで提供された食事はあまりに質素。トップアスリートの食事としては量も少なく、栄養のバランスにも欠け、ホテルの従業員との接触を避けるため部屋の前に置かれて冷めており、選手たちがSNSでブーイング投稿し、話題になるほどだった。

デリバリーやオンライン購入可

選手たちの批判を受けて、NBAはバブル滞在中の食事改善を約束。選手たちはガイドラインに従った上で、バブル外にあるNBA指定のレストランからデリバリーを頼むことが可能となったほか、自室に大型冷蔵庫を搬入して食料をオンラインで購入することもできるようになった。

経験豊富な専属シェフを招へい

さらに、NBAはバスケットボール米国代表チームの専属シェフ、ショーン・ラビング氏を招へいした。かつて元ピストンズの選手だったリチャード・ハミルトン氏の専属シェフからピストンズの遠征機内食担当も務めたラビング氏は、栄養管理に関するプロであるだけでなく、多くの国際大会でもチームに帯同して料理を作ってきた経験を持つ。米国代表チームに帯同する予定だった東京五輪が延期になったことで、急きょオーランド入りして選手のみならずスタッフの食事の面倒も見ている。

朝食や試合前後の食事を毎日140食

NBAによると、参加するチームから料理人1人がラビング氏の元に派遣され、それぞれのチームのニーズも考慮しながら毎日、朝食から試合前後の食事、約140食を作っている。「選手とスタッフに質の高い食事を提供することでNBAの再開を成功させるための手助けをしたい」とラビング氏は語り、午前6時すぎから午後8時まで厨房に滞在。作られた料理は感染予防のため、選手が滞在するエリアに1日1回、届けるシステムになっているという。

複数のメニューから好みのものを

ラビング氏は定期的にPCR検査を受けることが義務付けられているほか、宿泊先から厨房に専用車で通う以外に行動の自由は認められず、防護服を着用するなどガイドラインに従った万全な体制で食事が作られている。「栄養を考えたバラエティに富んだ料理を提供することが私の使命。マッシュポテトにグリーンビーンズ、BBQチキンだけを提供するようなことはしない」と完全隔離中に提供された食事を皮肉りつつ、常に選手が複数の料理から好みのものを選べるスタイルを徹底していることを明かしている。

ラビング氏が提供する食事のイメージ
ラビング氏が提供する食事のイメージ

具体的にどの選手が何をリクエストしたのかは明かしていないが、例えばある日は、ベジタリアン向けの全粒小麦のパスタ、サツマイモと赤身の肉を卵の白身で巻いたもの、ヘンプシードのルッコラとケールのサラダ、海藻のピューレを使ったスムージー、ベジタリアン向けタジン鍋、新鮮なアカハタにデザートは手作りのバナナブレッドといった内容。またある日は、スモークリブに鶏肉のパン粉焼き、パンチェッタと野菜を使ったペストクリームのパスタなど、メインだけでも数種類あるようだ。

バブルでの生活というストレスが多い環境でプレーする選手たちが良い成績を残せるよう、全力で食事のサポートを続けている。

ショーン・ラビング デトロイトでレストランを経営していた際に地元のピストンズに所属していたリチャード・ハミルトン氏(現在は引退)からヘッドハンティングされて専属シェフとなる。その後はピストンズが遠征に出る際の機内食を任されるようになり、CMの仕事でレブロン・ジェームズ(レイカーズ)の食事を作ったことが縁でUSAバスケットボールと国際バスケットボール連盟のシェフとなり、2008年北京五輪に米国代表チームの専属シェフとして帯同。今夏に予定されていた東京五輪でも選手の食事を任される予定だった。

【ロサンゼルス=千歳香奈子通信員】