東京オリンピック(五輪)の代表選考会を兼ねる競泳の日本選手権が4月2日、東京アクアティクスセンターで開幕する。東京五輪代表に選ばれるには、ここで派遣標準記録を突破することが最低条件。この一発勝負の大舞台で「1秒01」の壁に挑む男がいる。

吉田冬優(ふゆ、22=明大4年)。自由形の選手として、世界に引けをとらない188センチ、86キロは、800メートルリレーの代表入りを狙い、200メートル自由形のリレー派遣標準記録の1人平均タイム、1分47秒08をターゲットとする。自己ベストは昨年9月のインカレ決勝でマークした1分48秒09。2019年度の全国ランキング5位と、狙える位置にいる。派遣記録を突破して4位以内に入れば、代表入りを手中にできる。

昨年9月のインカレ200メートル自由形で優勝した吉田(明大スポーツ提供)

1秒01は縮められるのか。「200メートルを50メートルずつ考えた時、最初の100メートルで0.3秒、100~150メートルで0.19秒、ラスト50メートルで0.7秒上げればいいので、僕らは遠い目標ではないと思っている」。中学時代から共に歩んできた三菱養和SCの中川智之コーチとともに、集大成のレースに向けて最後の調整に励んでいる。

試合の時は蒸し器で炊いたお赤飯

全中、インターハイ、インカレと、年代別の大きな大会でトップに立ってきた陰にはいつも、母梅子さん(63)の作る「必勝おにぎり」があった。「試合の時は、お赤飯。前日に小豆を蒸して、もち米も蒸し器で炊くのよ」(梅子さん)。

東京辰巳国際水泳場で行われた昨年のインカレ時、チームとともに会場近くのホテルに宿泊した吉田に、梅子さんは毎日、おにぎりを届けた。赤飯5個、海苔なし塩おにぎり5個。レース前後の補食にするよう期間中、朝5時に起きて作った。

2015年インターハイ時は、京都のホテルに炊飯器と米を持ち込んだ。この時は赤飯こそ炊けなかったが、白米にサケや梅干しの具。チームメートのお母さんたちも一緒になって、自分の息子の分を握った。

吉田の普段の朝食例。ツナと卵のサンドイッチと枝豆おにぎり、焼きおにぎり

「コンビニとかで買ってもいいんですが、御願いするといつも作ってくれるんで」。競泳の試合は3~4日続くが、母の味は「飽きない」と吉田は話す。握る前、梅子さんは必ず塩で手を洗う。「石けんで洗ったままだと、石けんの味がしてしまいそうだから」。その少しの気遣いが味に表れ、吉田のパワーの源になっているのだろう。

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